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【9月4日公開】ラストベルトの片隅で、ありのままの世界を映す。|Bing Liu『行き止まりの世界に生まれて』

BRUTUSCOPE

No. 923(2020.09.01発行)
新・ニッポン観光
Bing Liu

 ドキュメンタリー『行き止まりの世界に生まれて』は、アメリカの厳しい現実を映し出している。

 舞台となるイリノイ州ロックフォードは、グローバル化により産業が衰退し、経済的にも社会的にも荒廃が進んだ“ラストベルト”の一角。3人の少年たちはそこで、父が日常的に暴力を振るう家庭環境に育ち、スケートボードを通じて仲間と友情を育み、そして大人になる。ある者は貧しい町を抜け出そうとするが、またある者は自らも暴力的に振る舞うなどして、負の連鎖を断ち切れないままに。

 3人の少年のうちの1人、ビン・リューは10代初めの頃から自分たちがスケートボードに熱中する様子を撮影し、スケートビデオを制作していた。その後20代になり、ドキュメンタリー作品を作り始めた彼は、自分たちが直面している現実をカメラに収め、『行き止まりの世界に生まれて』を完成させた。これは彼の初監督作である。

「物語のようにドライブする作品にしたいと思っていたんだ」

 過酷なドキュメンタリーでありながら、優れた青春映画を観たような後味を残すこの作品の構成を、彼は試行錯誤しながら、数年の歳月をかけて練り上げた。結果として、彼ら3人の成長を12年にわたって追う、エモーショナルなストーリーが出来上がった。

 なおかつこの作品は、自分の友人が撮影したホームビデオを観るかのような親近感を、観る人たちに感じさせる。リューは自分たちの葛藤する姿をカメラに収めるのと同時に、そこに生まれる親密な空気を作品に積極的に取り込もうとした。「むしろ大事だったのは、そういう瞬間を撮影することだった」と彼は言う。ただそのあたりに座って、仲間となにげない会話をしている時、ふいにそのような瞬間は訪れた。

「それはまるでグランドキャニオンに立っているような、その人と自分が確かにつながっていると感じられる崇高な瞬間だった」

 そういった場面を記録するたびに、彼は大きな喜びを感じていた。なぜなら、そこにこそ人間の正直な姿があるというのが、彼の基本的な考え方だったからだ。

「だって僕ら人間は、生きている時間の99%は自分のことを正直に見せたりしないものだろう?」

『行き止まりの世界に生まれて』は、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞やエミー賞のドキュメンタリー部門にノミネートされ、各国で絶賛された。

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『行き止まりの世界に生まれて』

監督:ビン・リュー/アメリカ中西部の閉塞した田舎町に育った3人の少年、キアーとザックとビン。彼らは大人になり、カメラの前で率直な、苦しい胸の内をあらわにする。彼らが受けてきた虐待や、自身が加えている暴力について。彼らの個人的な出来事を通して、アメリカの現実を鋭く射貫くドキュメンタリー。9月4日、シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。

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ビン・リュー

1989年生まれ。幼少期は中国、アラバマ、カリフォルニア、イリノイを転々とし、10代の頃からスケートビデオを制作。その後、撮影助手として劇映画やTVシリーズに関わり、本作で監督デビューした。米ヴァラエティ誌の「注目すべきドキュメンタリー監督10人」に選出されている。

photo/
Bing Liu
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS923号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は923号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.923
新・ニッポン観光(2020.09.01発行)

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