【荒木町らしさ】神酒亭/車力門 おの澤

グルマン温故知新

No. 922(2020.08.17発行)
お金、ちゃんと使えてる?

足繁く通いたくなる、粋な街で愛される和食。

情緒の残る小径に小体な店がひしめく荒木町。個人経営の店ばかりだが、銀座、赤坂、神楽坂などの美酒美食の強豪エリアに肩を並べる。そこに登場したご新規さんは、車力門通りの蕎麦割烹と路地に佇む女主人の小料理屋。いずれからも漂うこの街らしさを味わおう。

【神酒亭 ●四谷三丁目】好きを形にした、ほっこり系酒場。

「第二の人生をスタートするなら元気なうちに」と勤め先の放送局を早期退職。得意な料理と惚れ込んだ酒でもてなす酒場を開店した嶋崎美紀さん。料理学校で出会った味澤玲子さんと二人三脚、笑顔満開で営業中だ。

揃いのユニフォームがお似合いの嶋崎さん(手前)と味澤さん。

 アラカルト中心のメニューは野菜多めで、魚は選りすぐり。ある日のお通しは自家製ツナ、優しいだしがたっぷり染みた京都・久世茄子の旨煮、季節感が楽しめるだし巻き。大分〈長田商店〉直送の干物に、肉厚で食べ応えのある穴子の白焼きは定番に昇格した。酸っぱいもの、甘いもの、だしものをバランスよく、飲兵衛泣かせなひねりのある仕立てに。どの皿もちょうどいいボリュームとお値段で「ふらっと来てもらえたら」と、嶋崎さん。日本酒は秋田の酒販店と四谷の地酒専門店から。ワインはスペインとポルトガルにこだわり、シェリー酒も「醤油に合う」と3種もオンメニュー。荒木町の夜をおいしく優しく和ませる、女将コンビの登場です。

穴子の白焼き

主菜の魚料理の一つ。煮穴子を出す店が多い中、脂がのって肉厚な対馬産穴子をシンプルに白焼きにした一皿。豊洲市場の穴子問屋さんから「合う」と勧められたというユズコショウを添えて。塩味と辛味が穴子の甘味を引き立てる。単品でオーダーする客も多いという人気のセロリ味噌もたっぷり。900円。

神酒亭もなか

酒粕とクリームチーズに、食感と香りの良いいぶりがっことクルミを混ぜ、旨味のある生ハムをのせて。現在は〈新政〉の高級純米酒粕を使用。サクサクとした最中とも好相性。日本酒にもワインにも合う酒の肴。500円。

出汁巻 トマトあんかけ

「オムレツにはケチャップ。合わないわけがない」と、嶋崎さん。だし巻き卵はふっくらしっとりとした味わい。青のり、アサリ、グリーンピースなど季節の素材を餡かけに。シンプルに大根おろしだけの場合もあり。600円。

カウンターメインの店内はコンパクトながら居心地のいい空間。

【車力門 おの澤 ●四谷三丁目】とびきりの満足感で魅了する、蕎麦割烹の新星。

 店主の小野澤誠さんは、蕎麦懐石の名店〈銀座 矢部〉の出身。「おいしい料理を目がけて足を運んでくれるお客様がいる珍しいエリア」と、3年の月日をかけて荒木町に暖簾を掲げた。

高校時代のアルバイトから和食一筋の小野澤さん。

 季節の素材が似通いがちな和食にあって目を見張るのが仕立ての工夫だ。かつらむきで実をばらし、粉と水をまとわせ一粒一粒をサクッと香ばしく揚げるトウモロコシのかき揚げ。お造りには脂がのった旬のアジを数切れ。親方譲りの骨抜きハモは刺し身と焼き霜造りで目先を変えて。紀州備長炭で丁寧に火入れした真鴨もパンチ力は十分だ。

 締めは小野澤さんが「土鍋ご飯に代わる武器になる」と言う手打ちの十割蕎麦。口触りよく滑らかで、喉越しは抜群。つゆのだしに昆布は使わず、本節と荒節、サバ節と宗田節を使い分け、奥深い旨味で余韻を残す。

 温かいものは器も温かく、冷たいものは涼感たっぷりに。若き有望株の心配りと熱意に、リピーターが多いのも頷ける。

すだちとじゅんさいの冷やかけ蕎麦

それぞれ別立てにしていたじゅんさい蕎麦とすだち蕎麦を合体させた、この時季らしいオリジナルの冷やかけ蕎麦。手打ちの十割にこだわり、サバ節と宗田節の厚削りで取った香り高いだしを合わせる。見た目からして涼しげで、コースの最後を爽やかに締める。料理はすべて13,000円のコースから。

前菜

左から、自家製湯葉のべっこう餡、北海道噴火湾毛蟹 土佐酢のゼリーがけ キャビア、琵琶湖産稚鮎の道明寺粉揚げ、トウモロコシのかき揚げ。素材の良さや手間の量が伝わる一皿。季節によって内容は変更。

真鴨のたれ焼き

フランス産の真鴨を使用し、紀州備長炭で香りよくふっくらと焼き上げる。鴨の挽き肉にはコリコリとした食感のいい鶏の軟骨と蒸した蕎麦の実を混ぜ合わせ、つくねに。肉汁や油を吸わせ、旨味をぎゅっと閉じ込める。

網代編みなどの意匠を凝らし、白木のカウンターを採用した純和風の店内。
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神酒亭/みきてい

電話:03・6380・6311
営業時間:17時30分〜22時LO。
酒:生ビール(大)700円、(小)500円、日本酒40㎖400円〜。
価格:野菜料理500円〜、刺し身800円〜、一夜干し各種500円〜。
席数:カウンター6席、テーブル1卓4席。

東京都新宿区荒木町7。土曜・日曜・祝日休。交通:東京メトロ四谷三丁目駅4番出口から徒歩3分。車力門通りと柳新町通りの間の小径の1階。2020年月5月オープン。お通し500円。コースあり(料理おまかせ献立4,300円、飲み物・料理全部おまかせ献立7,000円)。季節の果物の自家製漬け込み酒も。メニューや日替わりで店内に飾られる歳時記は、書家でもある味澤さんの手になるもの。

車力門 おの澤

電話:03・6457・8550
営業時間:18時〜23時。
酒:ビール(小びん)800円、日本酒900円〜。
価格:おまかせコース10,000円、13,000円、15,000円。
席数:カウンター10席。

東京都新宿区荒木町6−39 ガーデンツリー1F。日曜休。交通:東京メトロ四谷三丁目駅4番出口から徒歩3分。2020年5月18日オープン。サービス料5%。コースは10品前後で、前菜、お椀、お造り、備長炭火焼き物、酒肴、強肴、十割蕎麦、デザートで構成。価格に応じて先付、温物、お好み蕎麦と品数、内容が充実する。21時以降限定で料理3品+お蕎麦のショートコース6,000円あり。

*営業形態、営業時間等は変更になることがあります。

photo/
Shinichi Yokoyama
文/
粂 真美子

本記事は雑誌BRUTUS922号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は922号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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