エンターテインメント

Chari Chariこと井上薫と、D.A.N.の櫻木大悟が語る生演奏と電子音の狭間。

BRUTUSCOPE

No. 922(2020.08.17発行)
お金、ちゃんと使えてる?
櫻木大悟(左) 井上 薫(右)

前例がないから冒険する、フリーフォームな音楽家たち。

18年ぶりにChari Chari名義の新作を発表した井上薫。南米からアジア、そして欧米まで、世界中の音楽から引用されるリズムに、ギターやシンセサイザーで独自の旋律を練り込み、独自の音楽へ落とし込んでいく。細かくジャンルに縛られる現在のポップミュージックの中で、唯一無二の豊かな存在感を放つ傑作になっている。そして、繊細なファルセットボイスのメロディと、レゲエ~ダブからテクノのリズムを自由に行き来するD.A.N.の櫻木大悟。この2組のジャンルを強いて言うならフリーフォーム。また共通するのは、家で聴けば温もりのある音楽、爆音で浴びればダンスミュージックに豹変する点だ。自由に音楽を奏でる2人へ、新作から制作方法まで話を聞いた。

櫻木大悟
新作、めちゃくちゃ好きでした どういう工程で制作されたんですか?
井上薫
曲によって異なるけど、リズムのサンプリングや編集から、ギターとシンセサイザーの演奏まで、機材の向上もあってほとんど自宅で制作できました。環境音を録音するフィールド・レコーティングや過去の演奏を使ったものもあって。
櫻木
自宅での制作がメインだったんですか?
井上
そうなんだけど、実は数年前にバンドでライブをやっていて。その頃に録音した演奏を編集したのが「Luna de Lobos」という曲です。
櫻木
ギターを弾かれていたんですか?
井上
80年代学生時代の頃はバンドでギターを弾いていて。2005年頃からDJと並行してセッションバンドを断続的に続けていた。14年頃に集大成として自分とギタリスト、パーカッショニスト、電子楽器のラップトップ担当の4人でライブやレコーディングをしていました。当時は、ダンスミュージックとバンドが交差する場所があったんだけど、今はあまりないと思っていて。そういう意味でもダブやテクノの要素を取り入れたD.A.N.の曲を聴いた時は驚いたんです。
櫻木
今はアルバムの制作準備をしているんですが、曲を作る方法を模索している最中なんです。ダンスミュージックのトラックメーカーが、バンドをプロデュースするような形というか。今までは、自分の中に演奏家とプロデューサーが同居していて、どうしてもダンスミュージックに興味があるので、テンポなど制約を設定しがちでした。演奏は本能的なので、自分を俯瞰して見られない。バンドなんだからBPM(1分間の拍数)にとらわれずに演奏し、その録音を持ち帰り、サンプリング、編集して作っていこうと思って。
井上
スタジオでの演奏と、プロデューサー的な編集作業を分ける感じだ。リテイク(再録音)を提案すると、ほかのメンバーから反発されない?
櫻木
そこは話し合いが必要ですね。
井上
ちなみに、今おいくつですか?
櫻木
メンバー全員26歳。僕とベースは小中学校が一緒で、ドラムとは高校の頃にバンドをやっていました。普段話はしないんですけど、演奏しているとわかり合える感じがするんですよ。
井上
定期的にスタジオに入っているんですか?
櫻木
はい。ドラムのミニマルなフレーズを延々と録音し、そのデータを持ち帰って編集という。
井上
若くしてD.A.N.のような成熟した音楽ができる理由は、メンバー間の信頼と、以心伝心のようなコンタクトが取れているからかもね。
櫻木
話は逸れますが、前に飲食店でバイトしていた時、作業で一番得意だったのが、一定の大きさに食材を切っていく作業だったんですよ。
井上
ミニマルな作業という点で、スタジオでの演奏と共通するね。単純な作業に見えるけど、実は集中力が必要で、かつ瞑想的な時間というか。僕らの共通点は、生演奏のオーガニックな音楽だけど、実は電子機材や楽器を多用している点にあるね。オーストラリアのサンティリ(1)というアーティストがいるんだけど知っている?
櫻木
大好きです! 彼の1枚目(4)を聴いていて。パーカッションの音色が心地いい曲(5)は、トンバックというハンドドラムを演奏するアーティストの作品。
井上
バーント・フリードマンと共演している人だね。これは聴いたことがないけど気になるな。ミナエ・ミナエ(2)は、ユーモアがあるシンセサイザーの使い方が面白いんだよね。
櫻木
最近、モジュラーシンセに興味があって。一からモジュールを組み立て、独自の生演奏しているスティーヴィオ(6)もいいんですよね。
井上
全部興味ある。聴いてみよう。

生演奏と電子音が 心地のいい作品。

井上薫セレクト

櫻木大悟セレクト

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さくらぎ・だいご

D.A.N.のギター、シンセ、ボーカル担当。2014年、市川仁也(B)、川上輝(Dr)と結成。『D.A.N.』(16年)と『Sonatine』(18年)を発表。

D.A.N.『Aechmea(Airhead Remix)』
5月から3週連続でデジタルリリースされた3曲のリミックス。食品まつりa.k.a. Foodmanによる「Elephant」、モグワイが手がけた深遠な「Bend」、エアヘッドの「Aechmea」(写真)。

いのうえ・かおる

DJ、プロデューサー。1994年からChari Chari名義で楽曲を発表。リスボンの〈Groovement Organic〉から個人名義で『Em Paz』(2018年)を発表。

Chari Chari 『We hear the last decades dreaming』
海外でもリリースされた『In Time』以来、18年ぶりの新作。「TOKYO」から始まる音楽世界行。バレアリックであり、話題のアンビエント/ニューエイジにもリーチした傑作。おかえりなさい。

photo/
Naoto Date
text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS922号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は922号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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