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【話題の映画】『スイス・アーミー・マン』を撮ったダニエル・シャイナート監督の2作目に注目。

BRUTUSCOPE

No. 922(2020.08.17発行)
お金、ちゃんと使えてる?
ダニエル・シャイナート

南部アメリカは、もっとカラフルだ!

『スイス・アーミー・マン』という映画をご覧になったことはあるだろうか。無人島に漂着した「スイス・アーミー・ナイフ(十徳ナイフ)」並みにサバイバルに役立つ「死体」を使って、ある男がその島から脱出を試みるという奇想天外なトンデモ映画だったが、これが実に面白く、一部のマニアの間でカルト的に話題となった作品だ。

 その映画を監督したのは、同じ名前を持つ2人の男性からなるチーム〈ダニエルズ〉。その片割れのダニエル・シャイナートが今度は単独で映画を撮った。それが現在公開中の『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』だ。そして、製作は今を時めく〈A24〉。前作は配給だけだったが、今回は製作も行う力の入れようだ。そのシャイナート監督に、今作のことを、またこの映画は彼の出身地でもあるアメリカ・アラバマ州を舞台にした南部映画でもあるのだが、監督の好きな南部映画ベスト3についても語ってもらった。

「この映画は、脚本を書いた親友のビリー・チューの依頼で撮ったものです。実は、次の作品もまたダニエルズ名義に戻るんですが、相棒のダニエル・クワンが脚本を書いていて、自分がいろいろ口出しするとクワンがイラッとしたりするので、その間、僕はこっちを撮ることにしたんです(笑)。ストーリーはビリーのアイデアで、実際起こったある事件を基にしているんですが、その構想が実に良かったし、脚本も面白かったんです。ビリーは最高にクレイジーなやつなんですよ」

 事の始まりは、アラバマ州のスモールタウンで暮らす3人のバンド仲間たちのうちの1人が、ある晩、何らかの理由で遂げた不慮の死から。残った2人の男たちが、その死の真相やそこに自分たちが関わっていたことを隠そうとすることで、どんどん深みにハマっていってしまうドタバタを描いたダークコメディだ。シャイナート監督自身も言及しているが、どこかコーエン兄弟の『ファーゴ』にも通じるようなテイストと言ったらいいだろうか。

 そしてその『ファーゴ』でも、映画の舞台となったミネソタ州(コーエン兄弟の出身地でもある)出身の俳優にこだわったキャスティングが行われていたが、それが本作でもそうなのだ。

「出演者もですが、実はクルーもできるだけ南部出身者を選んだんです。台所とか服とかそういうちょっとしたことに対して、うちはああだったこうだったと意見を言い合えるようにしたくて。出演者の方は、一つには、わざわざ髭を生やしたりメイクしなくても、普通にそのへんにいるような人を選びたかったということがありますが、もう一つの理由がアクセント。テレビとか映画を観て真似たものではなくて、実際にそこで育って身につけた訛りでしゃべってもらいたかったんですね。小さい頃、南部の訛りを誰かに真似されるのがすごく嫌いだったんです。だから、結果としては、プロの役者もいますが経験の浅い人もいて、バラバラだったんですが、リアリティを求めて南部出身の人を集めました」

 南部映画といえば、ジャン・ルノワールの『南部の人』のような農民を描いた映画や、まさに『アラバマ物語』というタイトルの黒人差別を描いた映画などを連想しやすいが、シャイナートは、南部映画はそれだけではないと言う。

「南部というと、若い人の間では茶色くて田舎くさいというイメージがあると思うんですが、実際はすごくカラフルなんですよ。いろんな人がいて、いろんな人種がいる。だいたい南部というと、2つくらい典型的なストーリーが思い浮かぶと思うんですが、実際はそうではなくて、今でも自分自身は、本とか音楽とか映画から南部について様々なことを学んでいます。驚きがたくさんあるんです。だから、この作品についても、いわゆるステレオタイプの南部のイメージも盛り込んではいるんですが、そういう部分も取り入れて観る人を驚かせたかった。いかに美しいか、いかに色とりどりかということ。ただ茶色いだけじゃないんだよ、というところを描きたかったんです」

『スイス・アーミー・マン』は、特に場所を特定するような映画ではなかったが、どこか近年の南部映画の傑作の一本、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督の『セルフィッシュ・サマー』を彷彿とさせるところがあった。シャイナート作品を、そのようにあえて「南部映画」として観てみるのも面白いのではないだろうか。

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『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』

ダニエル・シャイナートの単独名義での初監督作。マイケル・アボット・ジュニア、ヴァージニア・ニューコムほか出演。新宿シネマカリテほかで全国公開中。

シャイナート監督が選んだ、南部アメリカを舞台にした映画ベスト3を一挙紹介。

©IDIOM Film, Courtesy RaMell Ross & Cinema Guild

3位『Hale County This Morning, This Evening (原題)』

「ラメル・ロスという写真家がアラバマ州の貧困地区を回り、ドキュメンタリーっぽくない映像で黒人の生活を美しく描いた素晴らしい作品。サンダンスで賞を獲りアカデミー賞にもノミネートされた」

2位『The Foot Fist Way(原題)』

「ノースカロライナ州のテコンドー道場の指導者を描いたお下劣なコメディ。でも、すごく面白い。監督は、デヴィッド・ゴードン・グリーンともよく一緒に仕事をしているジョディ・ヒル」

The cast of Glory at Sea sails into the fog. Photo: Ray Tintori

1位『GLORY AT SEA(原題)』

「『ハッシュパピー バスタブ島の少女』の監督ベン・ザイトリンとその製作会社〈コート13〉が手がけた25分くらいの短編映画。ハリケーン・カトリーナで行方不明になった人たちを、自分たちで船を作って探しに行くファンタジー」

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ダニエル・シャイナート

ダニエル・クワンとのユニット〈ダニエルズ〉名義で、数々のMVを手がける一方、長編映画デビュー作『スイス・アーミー・マン』が、サンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞した。

text/
Mikado Koyanagi

本記事は雑誌BRUTUS922号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は922号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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