エンターテインメント

ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け』

星野概念「精神医学で診る本の診断室」

No. 921(2020.08.03発行)
いい自転車。

『ハマータウンの野郎ども』から四十余年。おっさんと成り果てた現実の「野郎ども」は、転職ありリストラあり、養育費あり借金あり、暴動あり腰痛あり、の山も谷もある人生を送ってきた。英国の市井の中高年を描く祝福に満ちたエッセイ集。筑摩書房/1,350円。

主治医・星野概念 診断結果:おっさんだって生きているんだ、友達なんだ。

 先日、自分の手首を傷つけて受診に来た20歳の女性がいました。「どうせろくな将来にならない」と父親に一方的に言われ、理解に努めないどころかいい加減に生きていると決めつけられていることが悔しくてやったと言いました。僕がその父と別で話した時は、将来が心配だったが伝え方がわからなかったと反省していました。自分の学生時代はもっと必死だった、という考えから始まり、それを誰にも言えずぐるぐるするうちに、どうせ何も考えていないのだろうという一方的な思考に発展してしまったそうです。ここ数年、おじさんと呼ばれる人たちが、若い世代に嫌悪感を抱かれるのを多く目にします。それらはきっとこの父のように、自分の生きた時代と違う現代にどう振る舞うべきかわからないうえに、相談したり弱音を吐けないなどの状況に陥りやすいことが関係しています。素直に疑問や意見を言えばいいと思いますが、家族も社会も年下ばかり。簡単にはできず孤独なのです。結果、卑屈になったり乱暴な物言いをしてしまいます。他人を嫌な気持ちにさせる言動はもちろん良くないですが、そうなってしまう理由もあるのです。本作には何人もの英国のおっさんが登場しますが、若い世代から見た痛さやわからなさは日本のおじさんと共通しています。同時に、おっさんたちが何を考え、どのような歴史的背景で人生を紡いできたのか、愛ある描写を読むことで、かわいさのような感覚も覚えます。ほぼ無意識的なものかもしれないおじさんへの嫌悪感。それをひっくり返して、断絶を緩めるような読書になればいいです。世代間の繋がりがより豊かになることを祈ります。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

ほしの・がいねん

精神科医など。いとうせいこうとの共著に『ラブという薬』『自由というサプリ』がある。

編集/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS921号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は921号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.921
いい自転車。(2020.08.03発行)

関連記事