エンターテインメント

出てきた!赤いソノシート。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 921(2020.08.03発行)
いい自転車。

 書籍に挟み込まれたまま半世紀……。本が意図せずタイム・カプセルの役割を果たすことがある。つい先日、『瀧口修造 マルセル・デュシャン語録』(東京、ローズ・セラヴィ/1968年7月28日刊行)を開いたときに、デュシャンのプロフィール口絵の裏にへばりついていた真っ赤なソノシートを発見した。むろん入れたのは自分しかいないが、へばりつきが神技。この『語録』には、高校時代に雑誌から切り抜いた〈加賀まりこ〉の下からあおって撮影した超絶かわいい写真ほか、当の瀧口氏からいただいた〈ノートを破っての手作り名刺〉(住所・電話番号入り)が封入されていて、それらは本を何度もひらくたびに確認済みで、ソノシートだけが神隠し状態だったのである。

 ソノシートは1960年代に広まった音楽他の安価な鑑賞ツールのひとつで、中心に穴のあいたブック・スタイルのものまであった。レコード針を乗っけるとき、もしや金属針がビニールを突き破るのではないかという恐怖があったが、薄さと湾曲オーケーの長所もあって雑誌の付録として重宝された。

 赤いビニールには白で次のように印刷されている。「武満徹=クロス・トークより、画家サム・フランシスのために 二つのバンドネオンとテープ音楽のためのバンドネオン」、『美術手帖』の1968年8月号付録。

 ここで記憶が一挙によみがえる。映画音楽を中心に完全に武満徹の音楽の魅力にはまり、専門的な『音楽芸術』まで購入し、武満の情報を追っていた高校から大学にかけての日々である。

 武満氏にサインをいただいたのは、小澤征爾指揮ニューヨーク・フィルの来日公演の『ノヴェンバー・ステップス』の時であった。この曲のあとに、自ら主宰する現代音楽のイベント『オーケストラル・スペース』のために書き下ろした作品が「クロス・トーク」で、それがまず『美術手帖』の付録として一般に届けられた。動く武満を確認したければ、勅使河原宏監督、安部公房原作・脚本の『他人の顔』がおすすめ。モデルの前田美波里がドイツ語で歌うという痺れるクラブ・シーンに客として登場。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS921号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は921号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.921
いい自転車。(2020.08.03発行)

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