アート

ポラロイド写真に見るアリ・マルコポロスの原点。

BRUTUSCOPE

No. 921(2020.08.03発行)
いい自転車。

90年代のスケーターたちを捉えた秘蔵ポラが、2冊の写真集に。

 それは2年前のこと。スタジオの引っ越しをしていた写真家アリ・マルコポロスが、荷物の奥で緑色の箱を発見する。はて何だっけ、と開けたところ、中に詰まっていたのは大量の古いポラロイド! 今を遡ること四半世紀前、スケーターたちを彼が夢中で撮っていた時代のポラだ。NYやカリフォルニアで1992年から95年にかけてポラを切った被写体の中には、ボブ・バーンクイストはじめ後にレジェンドとなるスケーターの姿も。スケートボード黎明期の若者の姿や時代の空気を鮮やかに刻んだお宝がこうして偶然“発掘”されたのである。

「ポラで本を作ろう!」と盟友のデヴィッド・ストレテルと盛り上がり、完成したのが『Polaroids 92‌−‌95』。NY版とカリフォルニア版の2冊同時刊行だ。デヴィッドは世界に名だたる写真集専門書店〈ダッシュウッド書店〉のオーナーにして出版者。「写真家にとってポラロイドは、画家や彫刻家のスケッチに当たる。発想のプロセスが如実に見てとれる点でも非常に意義深い」と言う。アリにとって、ポラ作品を発表するのはこれがほぼ世界初。そもそもポラのどこに惹かれるのだろう? アリ本人がこう語る。

「写真を見せる手段としてポラは“正直”だし、存在自体が美しい。その場でカメラからモノとして出てくる。なので、この本でも原寸大にこだわった。修整も加えていない」

 当時アリが使っていたフィルムは、ネガフィルムとポジティブ印画紙両方のロールが入ったピールアパート方式のもの。あくまでネガが主役であり、ポジは確認や記録用に使われた。しかし「発見したポジの中には褪色したり経年変化で傷んだものもあったが、それもむしろ味があって」とアリは愉快そうに振り返る。現在はデジタルとフィルム、半々で撮るが、ポラもたまに使うとか。

「ピールアパート方式のフィルムは10年くらいで製造中止になったはずだ。いつだったか、たまたま見つけて数本買ってみた。半分は無事で残りはダメになっていたが、久々のポラ撮影は面白かった。カラーのフィルムは手元に残っていたので、今回の自粛生活でポラロイドを結構撮ったんだ。どうせずっと家に籠もっているしフィルムもある、ポラなら現像もしなくていい! ってね」

 ポラには懐かしさも伴う。彼が最初に手にしたポラロイドカメラは《SX−70》。

「撮って少し待てば画像が現れる、というのが不思議でね! スピードこそ今のデジカメやスマホにかなわないけどね」

 アリといえばモノクロ写真。が、当初から狙ったわけではない。

「カラー写真を白黒コピー機でコピーしてジンや本を作っていたから、モノクロのイメージが定着したんだろう。写真を始めた頃は、自分で現像したいから当然モノクロだった。その後カラーとモノクロどちらで行くか、デジタル登場以前のカメラマンにとってお決まりの問いで迷ったが、結局はこだわらないことにした。見事な色彩に惹かれてカラーで撮ったはずが、現像したらモノクロだったということもある(笑)。フィルムを適当につかんでカバンに放り込んでいたからね! だがそれがとても良い写真になっているんだ。私のモノクロ写真の中には、もともとカラーのつもりで撮ったものが意外とある。あまり知られていないが」

 23歳でNYに住み始め、アンディ・ウォーホルやアーヴィング・ペンの助手を経て、ダウンタウン文化シーンの主要な担い手となったアリ。彼のポートレートは被写体が無名のスケーターや著名なラッパーだろうと、ハイエンドなファッションだろうと、さりげなさや優美さ、込められた温かい眼差しは変わらない。今回の写真集に収められたスケーターの世界をアリはこう回想する。

「彼らのコミュニティは独特だ。年齢や人種、見た目や出身で人を判断しない。10歳の小学生と18歳の青年もスケート好き同士、対等につながって一緒につるむ。絆が強く、変わり者も受け入れる。今の社会のありようを思うと、この“他者を受け入れる”文化の意味は大きいね」

Polaroids 92-95(CA) and Polaroids 92-95 (NY)

NY編は174ページ、5,000円。カリフォルニア編は104ページ、4,500円。共に予価。Dashwood Books刊。日本では原宿の〈SKWAT〉で購入可。https://twelve-books.com

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アリ・マルコポロス
1957年オランダ生まれ、NY在住。ストリートカルチャー写真界の旗手。グッチをはじめ、ファッションとのコラボレーションも精力的に行う。http://arimarcopoulos.net/

text/
Mika Yoshida & David G. Imber

本記事は雑誌BRUTUS921号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は921号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.921
いい自転車。(2020.08.03発行)

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