〝炭のアーティスト〟が放つ、闇と光の世界。
パリとソウルを拠点に活動する韓国人アーティストのリー・ベーは、30年にわたり炭を使い制作を続けてきた。「炭は闇を象徴する“黒”。そこに光は存在しません。しかし、その黒さはあらゆる光を吸収し反射させる。炭は暗闇と光の要素を同時に併せ持つのです」と言う彼の個展を訪れた。
一見、モノクロの絵画に見える《Landscape》。だが実は、黒い部分はいくつもの木炭がびっしりと貼り付けられ厚みがあり、粗くヤスリがかけられた表面はざらりとした溶岩のよう。《Issu du feu ch−200》は、横に連ねて展示された12の作品のうちの1枚だ。木炭が織り成す幾何学模様が美しく、磨き上げられた滑らかな表面は角度によって光を反射し表情を変える。ちょうど東洋版のステンドグラスのようで、展覧会のタイトルにある“崇高な”という言葉に頷ける。そして新作《Brushstroke》では、刷毛の連続的な運動と炭の濃淡が心地よいリズムを生み、不思議な余韻があった。
さて、韓国の南部に位置するリーの故郷・チョンドには、ある美しい伝統がある。旧暦上最初の満月の夜に“月の家”を建て、人々の願いが煙に乗って空へと届くよう燃やす儀礼「タルチッテウギ」である。彼の制作においてこの儀礼は重要な意味を持ち、作品に使用する木炭を数週間かけて自身が窯で焼くという工程にも通じるようだ。「私にとって伝統とは心の故郷。テクノロジーとグローバル化が重要視される現代において、アートは常に“新たな何か”を模索しています。しかし逆説的に、伝統こそが現代美術の価値を守っていると思うのです。炭は、燃焼することで普遍性や現実性が取り除かれた無垢な鉱物となり、万物の最終形とも言えます。無垢は、生命の起源である宇宙のカオスから生まれるもの。その中にあるエネルギーが伝わると嬉しいです」
『THE SUBLIME CHARCOAL LIGHT -崇高な炭と光-』
〜8月29日、ペロタン東京(東京都港区六本木6−6−9 ピラミデビル1F☎03・6721・0687)で開催中。12時〜17時。日曜・月曜休。予約制。
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- Shiho Nakamura
本記事は雑誌BRUTUS921号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は921号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。