エンターテインメント

アジア、アフリカ、南米、知られざる音楽を語り尽くす。

BRUTUSCOPE

No. 920(2020.07.15発行)
最高の朝食を。
Hiro “BINGO” Watanabe(左) 高野政所(中) 大石 始(右)

世界のダンスミュージックで踊れ!

ネットの発達や音楽制作機器の一般化、そしてDiploなどの目利きDJによる“発掘”を通して、局地的に楽しまれてきたダンスビートが新しいジャンルとして世界に広がり、ムーブメントを起こしている。ここではインドネシアのファンコットと出会い、アルバム『Enak Dealer』を日本でリリースした高野政所氏、アフリカのダンスビートを探り、DJとしてフロアを沸かせるHiro “BINGO” Watanabe氏、世界各地のトライバルな音楽を中心に探求する音楽ライターの大石始氏のお三方に、現在進行形のローカルダンスミュージックを語っていただいた。

高野政所
YouTubeでファンコットを聴いた時に、「これは今まで聴いてきた音楽のどの文脈にも当てはまらない!」と衝撃を受けて、気がついたらインドネシアのクラブにいました(笑/*1)。現地では商業的にも成り立つようなポピュラーな音楽なんですよね。
*1 インドネシアで購入したファンコットCD−R『HOUSE DANGDUT』。

それがRHYMESTER宇多丸さんのラジオ『ウィークエンド・シャッフル』で紹介されて注目を集めました。そしてBINGOさんが推されているゴム(南アフリカのダンスミュージック・クワイトを発展させた音楽。南アフリカのダーバンで生まれた)も同じく宇多丸さんのラジオ『アフター6ジャンクション』で紹介されましたね。
BINGO
アフリカのダンスミュージックが好きになったのはDJ MUJAVAという南アフリカのアーティストが、『TOWNSHIP FUNK』(*2)を世界的に有名なレーベル〈WARP〉からリリースしたのがキッカケですね。ゴムの元になったクワイトも好きだったんですが、ゴムはもっと音数が少なくて、ダークでベースの効いたサウンドっていう部分に惹かれたんですよね。
*2 南アフリカのDJ MUJAVAが2008年にリリースした『TOWNSHIP FUNK』。

大石さんが編集された『Glocal Beats』(2011年出版)でも世界の音楽事情を紹介されました。この10年でシーンの変化は感じますか?
大石始
YouTubeの発達によって、正規音源じゃなかったり、ローカルなコミュニティの中でだけ楽しまれている音楽がもっとあるってことがより明らかになってきましたね。その中でも今はコロンビアのチャンペータ(*3)っていう音楽に注目しているんですが。
*3 コロンビアの屋台で購入したCD−R。売られているものはほぼエロジャケ。

スーパーボウルでの、シャキーラとジェニファー・ロペスによるショーの中でも使われた音楽ですね。
大石
コロンビアで現地のパーティに行こうとしたら、レコード屋のオヤジに「危ないから絶対やめろ!」って止められるぐらい(笑)。地元の人の中だけで楽しまれてた音楽なんですよ。
BINGO
YouTubeに上がってる現地の動画……メッチャ客同士で喧嘩してますね(笑)。
大石
路上でサウンドシステムを爆音で鳴らして、っていうタイプの、いわゆるゲットー・ミュージックなんで観光客はゼロ。だけどそれが海外でも少しずつ広がりつつありますね。
高野
西洋で広まるとジャンル分けも含めて情報が早くなるんだけど、そうなるまでは探すことすら大変ですよね。探すときは、ひとまず「国名/DJ/REMIX」とかで検索して当たりをつけてます。インドネシアや東南アジアはあんまりオリジナルの概念がなくて、ビルボードのヒット曲をファンコット・アレンジした曲がスゴく多いんですよ。水商売なんで、クラブでウケればなんでもアリで。
大石
チャンペータにもご勝手リミックスはありますね。南米もどれだけフロアを盛り上げられるかが大事だから、クリエイターとしてのエゴみたいな部分はそんなに強くないし、それよりもクラブとか地域をレペゼンする気持ちの方が強いですね。
BINGO
逆にアフリカはオリジナルが基本ですね。だから世界的に通用するクリエイターも多く登場してて。それから地域のレペゼンとともに、“トライブ”を重視してる部分もあると思います。最近注目してるタンザニアのシンゲリもBPMが200ぐらいある、一聴するとCDの早送りみたいなビートなんですが、これもタンザニアの民謡的な音楽をエレクトロニックにしたもので、ビートパターンは民謡と基本変わらないし、スゴくトライバルなものなんですよね。
日本ではxiangyuがシンゲリを取り入れた「ひじのビリビリ」をリリースし、サブスクでも聴けますね。
BINGO
ただ、シンゲリはあまりサブスクには上がってないんです。リリースよりも制作してビデオを撮ってYouTubeにアップするのがゴール、みたいな。
高野
ファンコットもブートが多いんでサブスクは難しいんですけど、魔改造されてるからYouTubeのAIに引っかからないで、ガンガン上がってます(笑)。カンボジアも「クメールリミックス」という形で新しいビートが生まれてますね。ミャンマーも独自のグルーヴがあるので掘るのが楽しみです。
大石
日本でどういうダンスミュージックが生まれ得るのかに、興味がありますね。数年前に「ジャスコテック」という、スーパーの“ジャスコ”の中でかかってるようなBGMを意識したジャンルが生まれたんですが、それも日本独特のものなのかなって。それから盆踊りや音頭、祭りなど日本の独自のグルーヴを、現行のDJがかけられるようなダンスミュージックとして昇華するような音楽が生まれると面白いですよね。徳島の阿波おどり、沖縄のエイサーも、ローカルなダンスミュージックですから。
高野
そういうビートでトラックを作ったこともありますね。
大石
それをサウンドシステムで鳴らして遊べばその土地の音楽になるんじゃないですか?
高野
あとはおっぱいですよね。
大石
なんですか、それ?(笑)
高野
ベトナムで流行ってるビナハウスは、K−POPでも取り入れられたりする注目の音楽なんですが、縦ノリのビートに合わせて、女の子のDJのおっぱいが揺れるという(笑)。
BINGO
しょうもないな~(笑)。

【YouTubeで覗く、世界各国のダンスフロア。】

高野政所、大石始、Hiro“BINGO”Watanabeが解説するローカル・ダンスミュージック。

【ASIA】「民謡を取り入れたり、過去と地続きな部分が面白い」 by 高野政所

インドネシアでファンコットのCD−Rを販売している屋台の様子。 ©MANDOKORO TAKANO

東アジアで印象的なのは、中華系や東南アジア系のように民族や地域によって求められるグルーヴが違うんですよね。中華系や華人系だと、縦ノリでビートを刻む「マンヤオ」が10年以上流行ってるんですが、東南アジアになると、2拍目と4拍目にアクセントが入るビートが中心になって、ファンコットやファンキービートって呼ばれるビートは、そういう感じです。タイになると、3拍目にアクセントが来る「サームチャ(3CHA)」っていうタイ独特のディスコビートがあって、お互いに影響を与え合いながらも、同時に発展を遂げているんですよね。いきなり新しいビートや音楽が生まれたというよりは、もともと流行っていたビートのアップデートだったり、民謡的なものを取り入れたり、過去と地続きな部分も面白いですね。

1.「JUNGLE DUTCH 2019 BASS TRONTOON」
インドネシアで新興ジャンルとして人気を集めるジャングルダッチのノンストップミックス。

2.「Nonstop Vinahouse 2019|NST Full Track Thái Hoàng」
ベトナムのビナハウスシーンを代表するDJ Thái Hoàngのプレー。

3.「Budots Remix Disco Music Nonstop Volume 1」
チープなサウンドと、現地語でのサンプリングボイスに中毒性があるフィリピンのブドツ。

【SOUTH AMERICA/CARIB】「南米〜カリブの音楽は海を越えて新しくなる」 by 大石 始

チャンペータのCD−Rを扱うコロンビアのブートDVD屋のオジサン。 ©KEIKO OISHI

カリブの音楽は、古くはキューバやジャマイカ、ハイチの影響力が強かったんですが、国をまたいで広がることもあるんですね。例えばズークっていう音楽は、カリブのフランス語圏でまず広がったんですが、それ自体がハイチのコンパやソウルやファンクと混ざって、パリで誕生、それが逆輸入されて成り立ったり。しかもそれが大西洋を渡ることもあって、ズークがアフリカに入ってアンゴラでキゾンバっていう音楽になったり。世界的に注目されるアフロビーツも、そういったエッセンスが混ざり合って生まれたんです。コロンビアのクンビアも、アルゼンチンに渡って、クンビアビジェーラっていうスタイルに変換されたり。集団ごとのオリジナリティと、海をまたいで音楽のスタイルが行き交って、新しい音楽が生まれています。

1.「El Cheque #2 - El Huracán Turbo Lasser.」
コロンビアのサウンドシステム・カルチャー「ピコ」。爆音で流れているのはチャンペータ。

2.「ASI BAILA TANIA LA REYNA DE LOS BAILES」
メキシコではサウンドシステム・スタイルのクンビア「ソニデロ」が日常的に楽しまれている。

3.「JFP ft STEVEN MORRIS - Regular - New Zouk 2020」
海を越え、アフリカ各地でも人気のズーク・ラヴ。その最新曲。

【AFRICA】「トライブ意識が強いゴムという音楽」 by Hiro “BINGO” Watanabe

南アフリカのローカルなクラブ、ゴム/クワイトで踊る現地人。 ©mitokon

アフリカのダンスミュージックはインターナショナルになっています。イギリスのベースミュージックのレーベルでもゴムを扱ったり、ゴムのテンポをもっと遅くしスローハウス寄りになったアマピアノはヨーロッパでも人気が出そうだし、南アフリカにとどまってはいない。ただ、ゴムが生まれたダーバンのアーティストの中には、「ダーバンの人間が作ったもの以外はゴムとは呼ばない」っていう人もいて、例えば、故DJ SpokoやMUJAVAのクルーは、自分たちの音楽をクワイトと呼ばずバカルディ・ハウスって呼んでいます。地域意識が強いのは、おそらく“トライブ”が単位として成り立ってるから。トライブの音楽性がアップデートされていくんで、より排他主義とは違う意味で、“自分たちの音楽”という意識が強くなる。

1.「Unticipated Soundz|Boiler Room」
お気に入りのアーティストのBoiler Roomでのゴムのプレー。DJの3人が(たぶん)緊張していて可愛い。

2.「DJ Maphorisa thumping gqom set in The Lab Johannesburg」
南アフリカの代表的なプロデューサーによるアマピアノ・セット。

3.「Bamba Pana & Makaveli|Boiler Room」
高速のテンポとポリリズムの反復リズムにMCの煽りが乗るシンゲリ。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

ヒロ・ビンゴ・ワタナベ

DJ、プロデューサー・ユニットHABANERO POSSEのメンバー。近年ではアフリカのダンスミュージックのミックスも発表。

たかの・まんどころ

インドネシアのファンコットを日本でいち早く紹介した自称ストリートクリエイター。DJ、文筆家、ステッカー屋など幅広く活躍中。

おおいし・はじめ

世界各地のダンスミュージックと地域文化を追いかける音楽ライター。近年では日本の盆踊りに関する評論を数多く発表している。

photo/
Kitao Wataru
text/
Takagi "JET" Shinichiro

本記事は雑誌BRUTUS920号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は920号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.920
最高の朝食を。(2020.07.15発行)

関連記事