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【話題の映画】今度は女が銃を拾ったら⁉ 『銃2020』。

BRUTUSCOPE

No. 920(2020.07.15発行)
最高の朝食を。
武 正晴
中村文則

アフターコロナの今だから。映画が投げかける社会への問い。

作家・中村文則の第1小説『銃』(2002年刊/河出書房新社)が村上虹郎主演で映画化されたのが2018年。同作の企画・製作を務めた奥山和由の着想により、奥山和由×中村文則×武正晴が再びタッグを組んだ『銃2020』が公開。中村文則が原案を手がけ、初の映画脚本に挑戦。前作に引き続き、メガホンを取った武正晴監督と、その舞台裏を語る。

中村文則
完全に、奥山さんの口車に乗せられましたよね(笑)。
武正晴
前作を撮り終わって3人で食事をしている時、奥山さんが「女が銃を拾ったらどうなる?」と無茶ぶりし始めたのがそもそもの発端。そこからホントに映画化にこぎ着けてしまうのだから、さすが敏腕プロデューサーたるゆえん。
中村
小説だったら、こういうスピンオフという形ではまずやらない。でも、前作『銃』の手応えがあったから、小説とは違う、映画という表現でなら面白そうだな、と思えたんですよね。
主役の東子役には、前作で「トースト女」役としてキーマンを演じた日南響子さんを起用した。彼女の存在でどこまで組み立てていけるか。それが面白さであり、勝負でもありましたね。
中村
前作で、ワンピース姿などの彼女の存在感、主役のトオルが帰る時に見せた一瞬の複雑な表情などかなり印象的で、拳銃を拾う女性としてしっくりきたんですよね。しかも、ほかのキャストを聞いたら大物揃いで……。マジかよ⁉ と思って配役に合わせていくつか書き足しました。小説家としては、こんな経験なかなかないですね。
中村さんが書いた脚本が本当に生きていましたね。中村さんが描く言葉の力による「表現の美」を、どうやって映画で表現するか。現場でスタッフもキャストもワクワクしながら作っていることがわかるんですよね。役者たちが中村さんの世界観を体現していて、人物たちの魅力を輝かせていました。
中村
武さんの現場のひらめきを信じていたので、役者さんたちが言いやすいようにいかようにも変えてください、と託した部分が多かったです。映画はいろんな人の能力が重なり合ってこそできるもので、自分では予期せぬ方向へと動いていく。それは作家としてはすごくリスキーです。でもイチ映画ファンとしては面白い。こんな恐ろしいこと、武さんと奥山さんとでなきゃやってないですね。
『銃』という作品で再びメガホンを取るにあたり、前作では全編モノクロに挑戦したので、同じ手は使えない。そこで今回は、主人公の部屋を電気が止められている設定にしました。
中村
僕の設定では、東子の部屋は窓を特に覆うゴミ屋敷。としかしていなかったんですが、そう来たか、と。
映画の撮影現場において、電気が止まっているなんてまずないけれど、現代社会にはそういう生活をしている人がたくさんいる。この設定で、どう撮影するか。照明技師は? 美術は? かなりのチャレンジでしたが、通常のドラマツルギーとは別なものが生まれたと思います。
中村
今作では、そういう現場での発明、発見から表現が何倍にも転じたシーンがたくさんあって、監督や役者さんって本当にすごいな、と改めて痛感しました。東子を執拗に追い回すストーカー役の加藤雅也さんも、東子を追いつめる刑事役の吹越満さんも、まさに怪演です。
役者さんたちもノリノリで、全然嫌がらないんですよ。特に、東子を毛嫌いしていて、精神を病んでいる母親を演じた友近さんとか(笑)。
中村
友近さんもものすごかったですね……。素晴らしかった。ネタバレになるので詳しく言えないけど、最後の「状態」
は脚本と違ったけど面白かった(笑)。
登場人物は全員が狂気に満ちている。そんな中、中村さんは前作とは違うテイストのエンディングを用意してくれた。
中村
小説ではトオルを救えなかったので、前作にはなかった「救い」を表現したいというのは、一つありました。
そして銃の擬人化も、さらに強くなったと思います。前作で人間の内面にある象徴と捉えていた銃を、『銃2020』では「男性」として堂々と提示しました。例えば1950年代のハリウッド映画には、女性が男性に向かって発砲する場面がほとんど存在しない。銃を構えても、撃つ瞬間は映さずにシルエットや音だけで表現している。つまり、女性が銃を扱うことはタブー視されており、銃は男が使うものだという認識が、アメリカン・ニューシネマ以前の映画には間違いなくあった。今回、女が銃を拾うという物語を描くことで、そうした長年にわたる「女の無念」を晴らすこともできるのではと考えました。そして最後、東子は“男を棄てるように、銃を捨てる”。
中村
映画を観た人が、いろいろなことを考えてくれるといいなと思います。
奥山さんが、「この映画はアフターコロナの今の方が共感する人は多いと思う」とおっしゃっていたけど、奇しくもタイトルに“2020”とつけたことにも意味があると感じますね。
©吉本興業

『銃2020』

監督・脚本:武正晴/原案・脚本:中村文則/出演:日南響子、加藤雅也、友近、吹越満、佐藤浩市ほか/拳銃を拾った東子。そこから事件に巻き込まれ、狂気が覚醒していく。TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開中。

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たけ・まさはる

1967年愛知県生まれ。2007年『ボーイ・ミーツ・プサン』で映画監督デビュー。今年は『ホテルローヤル』『アンダードッグ』など監督作品が目白押し。『全裸監督2』も絶賛撮影中。

なかむら・ふみのり

1977愛知県年生まれ。2002年、『銃』でデビュー。代表作は『掏摸〈スリ〉』『去年の冬、きみと別れ』『教団X』など。最新著書『逃亡者』が好評発売中。

text/
Chisa Nishinoiri

本記事は雑誌BRUTUS920号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は920号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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最高の朝食を。(2020.07.15発行)

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