今年、音楽家デビュー50周年を迎える鈴木慶一。近年、海外でも注目されているはちみつぱいやムーンライダーズ、個人名義では映画『アウトレイジ』をはじめ、北野武監督作の劇伴も手がけている。たじろいでしまいそうなキャリアだが、お会いすれば気さくで、よく笑う。後輩ミュージシャンたちから「慶一さん」と慕われるのもよくわかる。そんな経緯からか、KERAと結成したNo Lie-Senseは、定期的なペースで作品を発表。3枚目となる『駄々録~Dadalogue』を完成させた。
「私が音楽を担当した蜷川幸雄さんの舞台『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』をKERAが観に来てくれて、何かやろうという話になったんだ。もともとノベルティミュージックや冗談音楽が好きで、ムーンライダーズでやろうとすると“こういう曲は一曲だけね”とか言われて(笑)。きっとKERAも有頂天で似た立場だろうな。普段から分泌されている要素が溜まり、3年くらいで塊になったら、お互いに持ち寄るんです」
12曲入りの新作には、カバーと共作を除いて各自半分の4曲ずつ作詞作曲している。
「私の歌詞に関しては、KERAを脅かしてやろうと、レコーディング前日か、当日に仕上げて送っていました。歌詞を見ながらビックリして、驚いたまま歌ってた(笑)。練習なし、すぐ本番の歌の録音、期待通りの反応だったから、面白かったな。その逆で、KERAの歌詞の可笑しさに悶絶しながら私が歌う。スケジュールの関係で、断片的にアルバムを作っていった分、全体にコラージュ感が出たね。その代表がKERAの提案による、残念ながら数々のヒット曲が残せなかったシンガー『鳥巣田辛男ショウ』。架空の歌手を高野寛くんが快く演じ、歌ってくれました。7曲のメドレーだから1分ずつくらいしか使わないけど、全曲フルで作りましたね。無駄なことを一生懸命やるって、楽しいものです」
コロナ禍でのデビュー50周年。大変な中でも、新しい方向も見出しているよう。
「3月に発表、7月に開催予定だったライブが中止になった。要するに発表もしなかった公演が中止になるという初の体験(苦笑)。6月にお客さんを制限した配信ライブをやったんだけど、アーカイブが3日間残っていたので、チケットを買い、ヘッドホンで聴いてみたの。なかなか良かったよ。今はサラウンドのイヤホンとか開発されているから、ちょっと楽しみだね」
- photo/
- Satoko Imazu
- text/
- Katsumi Watanabe
本記事は雑誌BRUTUS920号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は920号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。