アート

【話題のアート】気鋭アーティスト5名による『楽観のテクニック展』が開催中!

BRUTUSCOPE

No. 919(2020.07.01発行)
東京の正解
京都府天満町のアート宿泊施設〈BnA Alter Museum〉

こんな時代だから、肩の力を抜いてみて。

 人間の力の及ばぬ問題や人間同士の問題、そこから発生する様々な情報や言説。多くに触れすぎて心が張り詰めてはいないだろうか。はたまた、細切れになった世界の狭間に落っこちて、分断を感じてはいないだろうか。常に静かな緊張感が求められる現代において、“楽観”という言葉は人々に何を連想させるのだろう。

 京都府天満町のアート宿泊施設〈BnA Alter Museum〉で、特別企画展『楽観のテクニック』が行われている。本展が問うのは「いかにして未来を肯定し、楽観して生きていけるか」ということ。「楽観するためのテクニック・作法」をテーマにした、平山昌尚、やんツー、澤田華、木村翔馬、ペフという5組のアーティストたちによる作品を起点に、鑑賞者を“楽観”へと誘っていく。

 参加アーティストの一人、デジタルメディアを使った表現活動を続けるやんツーは“楽観”について「自分にとって、作品を作る時に何か決断を迫られる場面で必要になってくる態度」だと言う。

「作品にシリアスに向き合い続けても、結局何も決まらないことがあるし、シリアスすぎると大抵面白いものができない。楽観的な決断で結果的にうまくいくことが多いと感じます。単純に優柔不断なだけかもしれませんが」

 内的にも外的にも過多な思考に呑み込まれながら、自らの意思で点と点をつなぎ合わせていくことに疲弊している人も多いかもしれない。時には肩の力を抜いて、なんて言うけれど、やんツーは「楽観というテーマのもと作品を見せることは、楽観的であることに警鐘を鳴らし、人々を啓発するということでもあるのかなと思いました」とも話している。

「建物の外壁にボムされた平山さんのフニャフニャなスプレーの線を見たりだとか、単純にものを落下させて破棄したりすることが加速主義ってことなの? とか、ビデオストリーミングでゆるくつながることだとか、“そんなことが美術や表現になるの?”と考えてもらうことに意味がありそうな気がします」

 光のような速さで通り過ぎていく情報を取捨選択し、正解という名の型に詰め込もうとする。無意識にそんなことをやってはいないだろうか。例えば、それを突き詰めるでも、放棄するでもなく、ただ考えを泳がせてみたらどうなるのか。本展を通して世界を見ると、泳いでいった思考とは反比例して、自分の感覚が手元に戻ってくるような、バランスのチューニングがなされるかもしれない。

 また本展では、使用済みの入場チケットがほかの人の手に渡ることで、計10回まで無料チケットへと変わる。やんツーは「以前、美術館で見ず知らずのおばさまに、見るつもりだった展示のチケットを突然2枚いただいて展示を見たことがあります」という自身の体験を思い出しながら、「その時一人だった僕は、美術館のロッカーの上に余ったもう一枚のチケットを置いて“ここにチケット置いておきました。もし見かけたらご自由にどうぞ”とツイートをしたんです。その後チケットがどうなったのか気になっています。こんなふうに何か次のアクションに作用するといいですね」と語る。

 他人の手に物語を委ね、自身の手が届かないほどの広がりを妄想してみる。やんツーが気になっているというように、自分の手から離れたチケットはどんな道筋を辿っていくのだろう。普段は人に預けられない(気がしている)何かを、一度手放してみることで、“楽観”と、“楽観”が連れてくる摩訶不思議な面白さの姿が見えてくるのかもしれない。

 ちなみに、会場の〈BnA Alter Museum〉は、真鍋大度やEY∃(BOREDOMS)などが手がけた16種31部屋のアートルームに宿泊できるほか、今回の展覧会が開催されている階段型ギャラリー、ミュージアムショップ、バー&ラウンジが併設されている。宿泊と併せて、余すところなくアートを楽しんでみてはいかがだろう。

“楽観”への契機となるアーティストたち。

《壁画》制作年:2018/Anter oom Kyoto

1. 平山昌尚

《鑑賞から逃れる》制作年:2019/ 撮影:木暮伸也

2. やんツー

《Gesture of Rally #1805》制作年:2018/ 素材・技法:インクジェットプリント、レーザープリント、映像、音声、アクリル板、石粉粘土、木材、カッティングシート他

3. 澤田華

《In the Curtains VR映像》 制作年:2019

4. 木村翔馬

《A+A- AA CC K2 X W》 制作年:2019 /BnA Alter Museum, 京都

5. ペフ

特別企画展 『楽観のテクニック』

〜2021年1月24日、京都天満町〈BnA Alter Museum〉内の階段型ギャラリーSCGで開催中。チケット料金は500円。なお、宿泊客は宿泊代金に人数分のチケット代金が含まれている。会期中には関連イベントも開催。詳細は会場のWebサイトで随時発表予定。

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1.ひらやま・まさなお

1976年生まれ。絵画、ドローイング、パフォーマンスなどで東京を拠点に活動。

2.やんつー

1984年生まれ。デジタルメディアを基盤に公共圏における表現から着想を得た作品を多く制作。行為の主体を自律型装置や外的要因に委ねることで人間の身体性を焙り出し、表現の主体性を問う。

3.さわだ・はな

1990年生まれ。京都精華大学で版画を学び、写真や映像、立体、インターネットなど様々なメディアを用いながら、写真固有の特性に基づいた作品を発表。

4.きむら・しょうま

1996年生まれ。現代のVRペイントツールに存在するいくつかの特徴に注目しながら、VRや3DCGの技術が与える影響を想定した絵画の再構成を行う。

5.ぺふ

笹嶋一馬をはじめとする、ディレクター、アーティスト、ミュージシャン、デザイナーの集団。生活そのものがアートをはじめとした表現と等価であること、アートを超えてコミュニティを作ることを主眼に活動。

text/Aiko Iijima

本記事は雑誌BRUTUS919号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は919号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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東京の正解(2020.07.01発行)

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