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【7月18日公開】映画監督アナ・ルイーザ・アゼヴェードに聞いた、言葉の力。|『ぶあいそうな手紙』

BRUTUSCOPE

No. 919(2020.07.01発行)
東京の正解
アナ・ルイーザ・ アゼヴェード

老人と娘。手紙の代筆で繋がる2人の交流。

 ブラジル南部のポルトアレグレ。ヨーロッパからの移民が多く、隣国ウルグアイ、アルゼンチンからも多くの人がやってきて、豊かなミックスカルチャーを形成している場所だ。そんなポルトアレグレからやってきた一本の映画の主役は、78歳の独居老人エルネスト。彼が23歳のブラジル娘ビアと出会い、手紙や対話、文学など、様々な“言葉”をやりとりする中で、互いに“生きる”ための一歩を踏み出す。なんとも心温まる映画だ。

 この映画の大きなテーマに「老い」がある。アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督は、以前にも老いにまつわる作品を撮っているが、理由を尋ねると、「老人にはとてもドラマティックな瞬間があるから」だという。

「人は年をとると肉体的にかなり制限がかかり、あらゆる行動に決断が迫られます。エルネストも、どういう“老い”を生きていくかーー死を待つ人生なのか、残された人生を真剣に楽しむのか、という決断に迫られています。この映画では、その決断の瞬間を描いているのです」

 アゼヴェード監督がこの映画の脚本を書くきっかけとなったのは一冊の本。映画の中で、エルネストの愛読する本として登場する、ウルグアイの作家マリオ・ベネデッティの小説『休戦(La tregua)』(未邦訳)だ。また、ストリートで詩を読み上げる「抒情詩テロ」の場面でも、彼の詩「なぜ私たちは歌うのか」を引用。エルネストが興奮気味に詩を暗誦するシーンでは、視力を失いつつある彼の中に、読書で培ってきた豊かな言葉の世界が広がっていることを強く感じた。文学や物語が人に与える力について、監督に伺った。

「本を読むことは、人にとって必要不可欠。本を開くと簡単に別の場所へと旅ができますし、知らなかった文化や人の考えに触れられ、魂にまで入っていける。コロナで皆さんも実感したことでしょう。文学だけでなく、“手紙”の言葉も重要なものとして映画には登場します。エルネストは非常に内面が豊かではありますが、自分の気持ちを伝えるのが苦手。一方ビアは、言葉に対し自由な感性を持っていて、エルネストの気持ちを引き出す役割を果たす。その年齢を超えた交流が描きたかった。いくつになっても“交流”があれば、人生は楽しく生きられます」

“言葉”の力を考え直すきっかけとなる一本である。

©CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

『ぶあいそうな手紙』

目が見えなくなりつつある78歳のエルネストは、ある日故国から届いた手紙の代読を、偶然出会った23歳のビアに頼む。7月18日、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

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アナ・ルイーザ・ アゼヴェード

1959年ポルトアレグレ生まれ。映画監督。UFRGS大学、ブラジル美術学科卒業。84年から映画界で働き始める。ポルトアレグレの映画製作会社の創設メンバーであり、良質な作品を多数製作。

text/Keiko Kamijo

本記事は雑誌BRUTUS919号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は919号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.919
東京の正解(2020.07.01発行)

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