対談:『攻殻機動隊 SAC_2045』監督・神山健治×アニメ評論家・藤津亮太。
この対談が行われる2日前、一本のニュースがアニメファンの注目を集めた。「スタジオジブリが初の3DCG長編アニメを制作」。そこで2人にはこのニュースへの感想から話を始めてもらった。
- 神山健治
- 想像するに、作画のアニメーションが守るべき伝統文化になりつつある今、クオリティを保って制作するためには、ジブリさんでも3DCGを使わざるを得ないということだろうと思います。宮崎(駿)監督は今でもご自分で描いてるし、宮崎作品ならやりたいというアニメーターは多いんですが、それでも絶対数が足りないってことかなと。
- 藤津亮太
- 僕の印象では、神山さんがセルルックで『009 RE:CYBORG』を作った2012年あたりから、CGスタジオの技術水準が作画アニメの代替可能なラインまで上がってきた。それに(宮崎)吾朗監督は『山賊の娘ローニャ』で3DCGを経験したこともあって、「スタジオジブリ初のフル3DCG長編」につながったんだと思います。
- 神山
- 内製したのかな?
- 藤津
- いや、どこかと協力しているんじゃないですか? ジブリが自前でCGスタジオを作っていたら、話題にならないはずがありませんから。
- 神山
- たしかにそうですね。
- 藤津
- そんな難しい状況がある中で、神山さんが『攻殻機動隊 SAC_2045』でやろうとしたのは、作画アニメの代替ではなく3DCGでなければできないことじゃないかと、僕は感じたんですが。
- 神山
- 共同監督の荒牧(伸志)さんはそういう考えだと思います。ただその点では彼と僕の間には若干の温度差があって、僕はCG映像が持っている意味性を言語化することが先決だろうと思っているんです。そうしないとスタッフも含めて成熟していかないんじゃないかと。つまり「CG映像は残念ながらアニメではない、じゃあどう捉えるのか」。
- 藤津
- もともとCGは、実写では撮れない映像を作るために生まれた技術ですからね。
- 神山
- その点、実写との融合はうまくいっているんですよ。でもフル3DCGはホンモノに見せようとすればするほど嘘が目立ったりして、ゴールが見えてこない。ハリウッドは開き直って人形劇にして成功してますけどね。日本の制作状況を考え合わせると、今はまだアニメにとどまっている方がいいんじゃないかと僕は思うんです。
- 藤津
- それに連動してルックの問題もある。
- 神山
- フル3DCGではルックが作品のトーンを決める部分があって、『2045』ではフォトリアルに目配りしたキャラクターありきのルックというあたりで落ち着きましたが、これも正解がないに等しい。全身義体の草薙素子と普通の人間の違いなどはフル3DCGならもっと表現できると思っていたんですが、僕が想定していたレベルまでは至れずに改めて難しさを感じました。
- 神山
- でも結局、普通の人間も人形のようにしか描けなかったので違いが表現し切れなかった。もっとできたはずだというのが僕の認識なんです。
- 藤津
- なるほど。では素子がポスト・ヒューマンとボクシングで闘うシーンは? 3DCGとモーションピクチャーとアニメーション技術、それぞれの良さが詰まったシーンに感じたんですが。
- 神山
- あのシーンはよく描けたと、僕も思います。それでも作画アニメの『S.A.C.』で描いた、バトーのボクシングほどには誉めてもらえないんですよ。ここはもうちょっと誉めてくれよって(苦笑)。
- 藤津
- 以前神山さんが言っていた「CGは苦労が映りにくい」ところかもしれませんね。
- 神山
- 次は「どうせキャプチャーでしょ」とか言わせないレベルにしてやろうと思ってます。やっぱり「オォッ」って驚かせたいですからね。
- 藤津
- 控えめな神山さんの代わりに言っておくと、ほかにもタチコマと素子たちとの連動感など、3DCGの特性を生かした場面も随所にあったというのが、僕の印象です。
- 神山
- ありがとうございます。フル3DCG技術も監督も発展途上ですから。今の3DCGを作画アニメ史に当てはめて考えると、僕の感覚では、70年代半ばの闇雲に描いていた時代あたりなんですよ。
- 藤津
- 『宇宙戦艦ヤマト』。
- 神山
- そう、限定された空間を舞台にした会話劇なら描けるレベルです。作画アニメはその後『機動戦士ガンダム』でドラマを描けるようになり、『うる星やつら』で映画的な演出が導入されていく。だから3DCGもそろそろ、記号化の妙だったり引き算の妙が問われる時代に入ってくるんじゃないかと思っています。
- 藤津
- それは演出家・神山健治にとって、腕の振るい甲斐が増すということですね?
- 神山
- 多分そうなるでしょうね。今も楽しいけれどもっと楽しく、そして今も忙しいけれどもっとやることが増えるだろうと思ってます(笑)。
『攻殻機動隊 SAC_2045』
2045年、経済が崩壊し"サスティナブル・ウォー"によって維持される世界。傭兵として世界を渡り歩く草薙素子らの前に突如、驚異的な能力を持つ"ポスト・ヒューマン"が現れた。元公安9課課長・荒巻大輔に呼び戻された彼らは"攻殻機動隊"として再始動する。Netflixオリジナルアニメシリーズ。シーズン1全12話が、Netflixで全世界独占配信中。
神山健治
- photo/Keisuke Fukamizu text/Kaz Yuzawa
本記事は雑誌BRUTUS919号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は919号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。