女優・長澤まさみは14歳の時に故郷・静岡から上京した。
「東京は、仕事の都合で引っ越してきたから、私にとっては仕事場なんですよね。いつまで経っても住人だという感覚がないんです。いつのまにか、地元よりも東京の方が住んでいる時間は長くなっちゃったんですけど(笑)」
そう話す長澤だが、デビュー間もない10代の多感な時期を過ごしたのもまた東京。唯一心を許せる場所があるらしい。
「JR中央線の中野駅周辺は中学、高校時代に住んでいた場所なので、どこか自分の故郷感がありますね。今でも駅前に行くとすごくノスタルジックな気持ちになります。南口の線路沿いの道は、電車と並走するのどかな景色が好きですね」
キャリアは今年でちょうど20年、着実に女優としての実績を積み上げてきた長澤が、新作『MOTHER マザー』で演じたのは、息子・周平に歪んだ愛情を向ける母親・秋子。幼い息子一人を自宅に残し、行きずりの男と何日も遊び歩いたかと思えば、ふと優しい言葉をかけたり、かと思えばまた、客観的には理解し難い無理難題を押し付けたり。自分勝手な行動を繰り返す、難しい役どころだ。
「最初に脚本を読んだ時、秋子に共感も同情も感動もしませんでした。でもやっぱりイチ女性としていつかは子供を持つかもしれないと考えると、他人事ではないなと思ったんですよね。漠然としていますが、心をグッと掴まれる何かがありました」
劇中、小さな世界で生きる親子は、お互いがお互いに歪に求め合う、共依存という関係にハマっていく。秋子の「舐めるようにして育ててきた」という言葉が象徴的だ。
「寄生虫みたいに周平に寄生している秋子だけど、このセリフをなぞると、彼女は彼女なりに確固たる譲れないものがあって周平に接していたのかなと感じますね。やっぱり同情はできないけれど」
見事にその執着を表現した長澤だが、ちなみに、私生活でついつい「依存」してしまうものはあるのだろうか? 聞いてみた。
「それが、本当に全くない! 料理は好きで、そりゃおいしいものは食べたいんですけど、出されたものは何でも食べるしなぁ。こだわりがないんです(苦笑)」
依存しないのは心とカラダが健全な証拠。カラッとした性格が、20年間の確かな仕事ぶりを支えているようだ。
『MOTHER マザー』
監督・脚本:大森立嗣/出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、木野花ほか/母親から歪な愛を受けてきた17歳の少年が、とある殺害事件を起こすまで。実話をベースにした衝撃作。7月3日、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開予定。
- photo/Koichi Tanoue styling/Miyuki Uesugi hair&make/Minako Suzuki text/Emi Fukushima
本記事は雑誌BRUTUS919号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は919号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。