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初代編集長・木滑良久が語る、BRUTUS創刊前夜。

「東京の正解」BRUTUS.jp特別記事

No. 919(2020.07.01発行)
東京の正解

「90歳だからね。もうみんな忘れちゃったよ」
約束の時間よりずいぶん早くに、待ち合わせ場所にカーディガン姿の軽快なカジュアル・スタイルで颯爽と現れた木滑良久さんは、そう言ってニカッと微笑んだ。『週刊平凡』『平凡パンチ』『アンアン』『ポパイ』、そして『ブルータス』まで数々の編集長を歴任し、多くの雑誌の創刊に関わった「伝説」の編集者。この世界に長くいる先人たちが最上の尊敬を込めて呼ぶ「キナさん」。本誌では〈東京と僕〉のインタビューページに登場してくださった木滑さんに、創刊40周年を記念して『ブルータス』の創刊にまつわる秘話を伺った。

原点となったニューヨークのバー。

1976年に『ポパイ』が創刊した後、数年して『ブルータス』を創るだろうなという予感はありましたよ。石川次郎はじめ編集部の人間もだんだん歳を取ってきて、もっと大人が読む本を作りたいと思ってたからね。『ポパイ』のスタッフでも年長の連中がみんな『ブルータス』に移ってきた。それで創刊する前、雑誌のリサーチのために、スタッフ数名でニューヨークに行ったんです。取材もしないで、ただ行くだけ。贅沢だったな(笑)。その時、マンハッタンの『ウォルドーフ・アストリアホテル』のすぐ近くにある、小さなバーに行ったんですよ。マンハッタンは狭いから駐車場が少ないんで、郊外から通うビジネスマンたちが待ち合わせをして車に相乗りして帰る。バーはその待ち合わせ場所になっていたんだ。そこに、若いビジネスマンの連中が次々と飲みに来るから、うなぎの寝床みたいな店は満杯。みんな立って飲んでる。高級な、乙にすましたバーじゃないんだよ。そこへ僕らが行ってみたら、隣にいたアメリカ人が“お前ら、何飲むんだ?”と聞いてくるんです。“マティーニ・オン・ザ・ロック”なんて答えると、まるで伝言ゲームみたいに、客伝いに注文がカウンターへ通って、少し経つと、今度は奥からマティーニが人伝いに運ばれてくるわけ。みんなすごく気さくで、僕らが注文したテーブルのフライドポテトに勝手に手を伸ばして食べちゃうの。その雰囲気がリラックしてて、粋で、すごくいいなあと思ってね。みんなで『ブルータス』はこういう雑誌にしようよ、なんて盛り上がったんです」
 ただ格式あるかしこまったバーじゃなくて、お洒落で気さくな大人の男たちが集まって、ワイワイやる店。雑誌のイメージが、そんなバーから生まれたというのもまた粋な話である。

パリで生まれた堀内誠一さんによるロゴ。

ニューヨークから、今度はパリに住んでいたアートディレクター堀内誠一さんのところを訪ねました。僕とは古い付き合いで、『アンアン』『ポパイ』も一緒にやってきた堀内さんが、すごい早足でパリ街中を案内してくれてね。もうくたびれた、と言うと、じゃあ飲みに行こうか、と。また堀内さんが酒が強いんだ。それで、居酒屋でワインを飲みながら”ブルータスはこんな雑誌にしたい”なんて話をしたら、彼は “そうか、大体わかった”とか言いながら、その店にあったナプキンペーパーに、あの『ブルータス』のひげのついたロゴをサラサラッとフリーハンドで書いてくれたんです。それがもうイメージにピッタリだったから、“これでいこう!”と。その後、しっかりと設計した書体も書いてくれて。それを複写したものは額装して今も手元に持っていますよ」

これがその額装。下のロゴは少し丸みを帯びているのがわかる。まだデザインが手書きだった時代の名残も。

 創刊から40年を経て、今にいたるまでまったく変わらず受け継がれているかのロゴを表紙に掲げ、1980年5月、『ブルータス』創刊号がついに発売! 表紙のモノクロ写真に並んだ大人の男たち付けられたキャッチコピーは〈We did it! 見てごらん!いいカンジだろ。〉だった。
LAに仮設の編集部を作ったんです。ハリウッドの大きなホテルのプールで、みんな裸で打ち合わせしてた。堀内誠一さんもパリからやって来たけど、“何だよここは、つまんないなあ“とずっと文句言ってたな(笑)。創刊号の表紙の写真は堀内さんがライカで撮ったものなんです。偶然、バーバーに入ってきた年配の親父がかっこよかったから、撮影させてもらって。名前を聞いたら、ジョージ・ラフトという昔の名優だって言う。だけど、後から聞いた話では、彼はジョージ・ラフトじゃないらしいんだ! 嘘だったんだよ。表紙にもラフトだって書いちゃってるんだけどね(笑)」

ここで打ち合わせをしていたというプールの写真。創刊号では見開き写真で掲載されている。

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Photo/
Kaori Oouchi
Text/
Kosuke Ide

本記事は雑誌BRUTUS919号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は919号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.919
東京の正解(2020.07.01発行)

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