発見! 進化する合いがけカレーの法則。

DRY & WET!

No. 918(2020.06.15発行)
CURRY for Geeks 混ぜる、食べる、混ぜる

世界一のカレー・ダイバーシティを誇る東京。ところが最近似たようなカレーも増え飽和状態となりつつある。ならばと新しい可能性を探れば、ドライ&ウェットの法則に行き着く。なぜか。店主の個性と“混ぜる意図”がよりハッキリと伝わるから。

『ライオンシェア●代々木』Aセット(ドライキーマカレー+ ほうれん草のチキンカレー) 1,250円

なぜドライ&ウェットなのか。

理由1 ルールを作るとカレーは冒険できる。

ドライは食感を生み出すのが得意だが周りに味を浸透させることは苦手。一方ウェット同士では混ざりすぎて均一化してしまう。互いの利点をルール化するなら、例えばこう。甘いドライを店の名物として固定する。一方でウェットの味や辛さを選べるようにする。これだけで混ぜて楽しく、食べ飽きないカレーになるのだ。

理由2 他ジャンルを一皿に取り込む包容力。

一度「その1」のルールさえ作れば一皿に異なるジャンルの2品を“共存”させる懐の深さと、混ぜ合わせれば新たなカレーが生まれるほどの説得力が得られる。例えば左ページの〈魯珈〉なら、魯肉飯×カレーの合いがけという“異色の定番性”が店のブランディングになり、唯一無二の存在感を放つことに成功している。

理由3 機能的なデザインを楽しむ

デザイン性が高いドライ&ウェットの元祖といえば90年代の〈パク森〉が挙げられる。高低差、彩り、配置、分量、盛り付けで、味を棲み分けたり、ワザと混ざりやすくもできる。機能がビジュアルへと直結するから店主の思惑を読み取りやすい。食べながらそんなことに思いを巡らせていたら、既に上級者の仲間入りだ。

『ライオンシェア』●代々木

まず玄米にドライキーマとアチャール、ショウガ、刻み野菜をグシャグシャ混ぜていただく。次にウェットカレーと鶏肉で自在に味変しよう。

『鶏キーマの旨味を嚙み締めたら、カレーを注ぎ入れ、モモ肉をほぐし混ぜる。チキン同士の共演を楽しむ。』

 インド料理好きに愛された松本〈シュプラ〉(現在は閉店)で修業、その味を受け継いだ貴重なカレー店。ドライキーマのせライスにウェットカレーを別皿で組み合わせたセットが名物だ。ライスは三分づき玄米、パラッパラの鶏肉キーマと一緒に噛み締めれば肉の旨味がギュッと溢れ出す。トッピングのアチャールやショウガ、刻み野菜を混ぜ合わせ食感の変化を楽しんだら、いよいよウェットとの顔合わせ。上からスパイシーなカレーを注げばキーマはしっとりと味変。さらに2時間半じっくり煮込んだホロホロの鶏肉も、崩しながら混ぜればさらなる旨味が溢れ出し……まさに変幻自在である。この独特なドライ&ウェットスタイルが生まれたのは〈シュプラ〉のさらに前身となる〈山猫軒〉。別メニューだったドライとチキンのカレーを合わせて食べるのが常連さんの間で流行ったのがきっかけだそう。〈ライオンシェア〉がオープンした2004年頃は、まだカレーを混ぜることに戸惑う客も多かった。ここ数年でようやく時代が追いついてきたようだ。

●東京都渋谷区代々木3−1−7 1F☎03・3320・9020。11時30分~14時LO、18時30分~22時LO。日曜・祝日休。22席。ビールやおつまみも。

ランチ、ディナーともにイートイン可でテイクアウトも継続予定。ディナーのみ短縮営業。営業情報は公式HPにて随時。

『SPICY CURRY 魯珈』●大久保

ろかプレート(1,050円) まずは魯肉飯とカレーを混ぜず交互に味わおう。それぞれの味わいを堪能したら今度はスプーンで魯肉をカレーに崩し落としながらいただく。甘辛とスパイシーさのバランスを好みで調節しつつ食べ進めるのが楽しい。

『絶対的な軸がカレーの世界を広げる。スパイス名人の実験を支える哲学とは。』

「一度ドライ&ウェットの面白さを知ると、その世界から抜け出せなくなるほど懐が広い」と語るのは〈魯珈〉の店主、齋藤絵理。スパイシーなカレーと台湾の甘辛い魯肉飯が織り成す意外な旨さがSNSで話題となり、瞬く間に東京を代表する繁盛店に。「米に合う料理という共通項が鍵。ライスと魯肉飯を定位置に置けばどんなカレーでも組み合わせられるんです」と語るだけに、南インドカレーに欧風カレー、タイカレー、麻婆カレーと、どんな意外な組み合わせでも〈魯珈〉のカレーにしてしまう縦横無尽ぶりだ。基本となるチキンカレーもあるが、それすらも年々インド料理のレシピから離れ独自進化している。スパイスの名人といわれる齋藤こそが成し得るワザともいえるが、ウェットなカレーと混ぜてもドライな魯肉飯の存在感は残り続けるというのが大発見だった。互いの役割を尊重しつつ良さを引き出し合う新たな共存関係は、しっかりとした軸足から次々と生み出され、今日も行列客の舌を唸らせる。

●東京都新宿区百人町1−24−7 1F☎03・3367・7111。11時~15時LO(火・木11時~14時LO、17時~20時LO)。土曜・日曜・祝日休。9席。

ランチ、ディナー共にイートイン可でテイクアウトも継続予定。営業情報はSNSで随時。

『カレーノトリコ』●神田

あいがけカレー(1,400円) 白米にカレーがかかっていない部分を残しているのは、いきなり混ぜず別々に食べてほしいという店主のこだわり。まずはドライとウェットを別々にいただくのがオススメだ。混ぜるときはスプーンにすくって少しずつ。

『サラサラと中毒性のあるスープと、食べ応え十分の具材のハーモニー。』

 自らを「気難しいクソ店主」として称してはばからない田邉周平は、欧風カレーの名店〈ボンディ〉、インド風カレーの名店〈エチオピア〉の両方で修業した経歴を持つ。だが、ここのカレーは欧風でもインド風でもない完全なるオリジナル。どのカレー店とも似ていない孤高の美学がある。スープ状のカレーは和風だしの旨味を巧みに利用、白米と合わせればスパイシーな茶漬けのようで、夢中でサラサラ掻き込んでしまう中毒性がある。振りかけたカスリメティのムワッとした香りも食欲をそそる。また、驚くべきはゴロゴロと塊で入った鶏肉のボリュームだ。「チキンカレー頼んでチキン少なかったら悲しいでしょ?」という店主の強い思いが込められているという。一方のドライカレーは名店〈ハイチ〉に着想を得ながらも、コンニャクを加えギュッと弾力ある食感に仕上げたオリジナル。オリジナルな味を追求することに妥協を許さないという“気難しさ”と、器や盛り付けへの細かな配慮が嬉しい極上の一皿だ。

●東京都千代田区神田鍛冶町3−5 1F☎非公開。11時~14時LO、18時~21時LO(土11時~15時LO)*売り切れ次第終了。水曜夜・日曜休。7席。

ランチ、ディナー共にイートイン可。営業情報はフェイスブック、ツイッターで随時更新。

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photo/
Susumu Takahashi
text/
カレー細胞

本記事は雑誌BRUTUS918号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は918号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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