エンターテインメント

いとうせいこう・星野概念『自由というサプリ』

星野概念「精神医学で診る本の診断室」

No. 918(2020.06.15発行)
CURRY for Geeks 混ぜる、食べる、混ぜる

人には、孤独を緩和する「心の居場所」が必要だと思います。それは、何かが明確に得られるわけではないけれど、実はとても大切なゆるく曖昧な場であることが多いような気がします。患者と主治医の関係もある2人のトークショーが一冊に。リトルモア/1,500円。

主治医:星野概念 診断結果:1人じゃない、一緒でもない。“まとまらないまとまり”って、いいね!

 新型コロナウイルスの蔓延以降、生活が変わりました。オンライン会合もその一つ。飲み会には僕も何度か参加しました。それで感じたのは、ネットでも直接の集まりでも、居心地のいい場とそうでもない場があるということ。場に参加する際、マナーや雰囲気に気を配り続けないといけない会は緊張します。自分の気分に逆らわず自由にできた方が楽なのに、それができないのは、ありのままに近い自分でいることが許されない気にさせる場ということです。何かについての問題意識を高く持たなければ、とか、お洒落でいなければなどの無言の同調圧力を感じてしまう会合は、あまり居心地がよくありません。いとうさんは本書の中で、ファミコンゲーム『ナポレオン戦記』(いわく、クソゲー)の話をしています。このゲームは思いがけず、兵士たちが敵のいない場所(いとうさんいわく、畑)に攻め込んだりしてしまって、まとまりにくいそうです。これはゲームのコントロールの難しさの影響とはいえ、戦いという「同調圧力」が極まる場において、そうならない兵士たちというように見えそうです。そんな兵士たちも場にいられる豊かさのようなものを勝手に感じてしまいます。でも考えてみれば、人はみんな違うので同調なんてなかなかできません。かといって1人だと孤独で辛い。ほぼ無目的で自由な寄り合い所があれば、そんなあべこべな辛さを少しだけでも減らせるかもしれません。そう考えて開催された、まとまらない会合の模様が本書に収録されています。役立つ内容ではないかもしれませんが、そんな本があってもいいではないか。ぼんやりと自由を感じられる読書になれば本望です。

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ほしの・がいねん

精神科医など。『サプリ』の前作、いとうせいこうとの共著『ラブという薬』もご一緒に。

編集/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS918号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は918号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.918
CURRY for Geeks 混ぜる、食べる、混ぜる(2020.06.15発行)

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