苦境でも止まらない、音楽家の創造と活動。
NYを拠点に活動するジャズトランペッターの黒田卓也が、新作『Fly Moon Die Soon』を発表する。これまでの作品では、セッションするミュージシャンへ作曲した譜面とデモを渡し、レコーディングの際には、アドリブも含め「ある程度任せた」セッションをしていたという。しかし、新作ではリズムトラックを自ら制作し、それを忠実に生演奏に差し替えた楽曲が中心。アフロビートからメロウなボーカルまで、多彩な曲が並ぶが、根底はファンク。統一感の高いアルバムになっている。作品を締めくくるのは、韓国やアジア各地でも活動するDJ、シンガーソングライターのYonYonを迎えた「Do No Why(YonYon & MELRAW Rework)」。日本語と韓国語の交差する新鮮すぎる楽曲制作、そして今後の音楽家の活動について聞いた。
- YonYon
- 実はお話をいただくまで、黒田さんのことを存じ上げなかったんですけど、ディグって(調べて)みたらめちゃめちゃすごい人だったという……。
- 黒田卓也
- ディグってくれたのか(笑)。挨拶がてら話していたら、トラックメーカーのMELRAWが共通の友人だとわかり、参加してもらうことにしたんだよね。彼はジャズからエレクトロまで理解していて、僕らの音楽的な懸け橋になってくれた。3人でスタジオへ入り、音楽ソフト上で曲を分解し、歌とラップを乗せるパートを再編集して。原曲は複雑なコード進行で、ビートも入り組んでいるから、最初からセンシティブな作業だったな。
- YonYon
- 歌詞とメロディをつける時も苦戦しました。ハマるメロディを見つけるまで聴き続け、何パターンか作って。
- 黒田
- 最初から決めていたワケじゃ?
- YonYon
- ないんです。ちょっと呪文のようにしたかったんですよ。私は日韓どちらの言葉も話せるので、かっこよくハマるものを使った感じです。
- 黒田
- わかる! 新しくて、かっこいい音楽を作る方が重要なんだよね。ジャズマンは演奏に対して求道的で、ストイックなイメージがあって、僕自身も憧れていた。でも、NYの連中たちは、みんなポップスの仕事もするから、パソコンを使って作曲作業をしている。音楽家も環境に応じて変化していくと思うんだよね。
- *
- 黒田
- 緊急事態宣言は解除されたけど、音楽家のライブの形態も変わると思う。DJ活動はどうなっているの?
- YonYon
- 3月からクラブが営業を自粛していましたが、5月くらいから配信ライブのDJが増えています。当初は配信を観ていて、そのまま投げ銭ができるシステムがなかった。背景が合成できるアプリ「TWITCH」から配信するけど、投げ銭はPayPalでの別途送金や、アマゾンの商品券を贈ったりとか。
- 黒田
- それは面倒だね。
- 黒田
- 「venmo」には、割り勘できるシステムがあるから友達同士でも使っているくらい。今後ジャズのライブ配信も始まるけど、僕はチケット制ではなく、投げ銭が一番正しいと思うんだよね。
- YonYon
- DJはスマホやパソコンからの配信が多いけど、バンドだと何台もカメラが必要になるんじゃないですか?
- 黒田
- ライブ制作側は大変だと思う。ジャズは複雑な音楽で、現場で体験することに意味がある。ライブ配信でどこまで臨場感が伝わるか、まだ様子見かな。
- YonYon
- 配信はどこでもできるので、一ヵ所の拠点にとどまる必要がなくなってくる。大型フェスの多くは中止になっているけど、例えば地方とかで感染と騒音の対策をすれば、小さな野外イベントができると思うんですよね。
- 黒田
- 場所は駐車場や校庭とか借りられたら、どこでもいい。やっぱり音楽は生で体験することが一番だから。要望があったら、僕が一人で出向き、ジャズの演奏を届けるような仕事もやってみたいな。
YonYon
- photo/
- Naoto Date
- text/
- Katsumi Watanabe
本記事は雑誌BRUTUS918号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は918号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。