エンターテインメント

【特別対談:漫画家・椎名うみ×セクシー女優・戸田真琴】『青野くんに触りたいから死にたい』で語るべき「性欲と理性」

「マンガが好きで好きで好きでたまらない」BRUTUS.jp特別記事

No. 917(2020.06.01発行)
マンガが好きで好きで好きでたまらない

女子高生の刈谷優里は、隣のクラスの青野龍平に告白し、初めての彼氏ができた。しかし、付き合って2週間後、彼は交通事故で亡くなってしまう。ショックのあまり死のうとする優里の前に現れたのは、幽霊になった青野くんだった……!? 講談社『アフタヌーン』で連載中の『青野くんに触りたいから死にたい』(以下、『青野くん』)は、恋愛あり、友情あり、エロあり、ホラーありの、人間と幽霊による異色のラブストーリー。

作中でもキーポイントで描かれる“エロ”。幽霊と人間、触ることができない二人だが、お互いの愛を確かめ合うために試行錯誤して“エッチなこと”をしようとする。本能的な優里ちゃんと、自分を見せることが苦手な青野くん。

「理性的な人がみせるエロって嬉しくないですか?」と語る戸田さんに、椎名先生独自のエロについての話が明かされる。「自我」について、そして終盤では物語の核心に迫る話にまで展開する。

悲しいとき悲しいと言えない人の性欲は尊い。

幽霊と人間の二人が触れ合うために、お互いの口に添えた指を近づけていってのキスや、相手の手の動きをなぞっての触り合いなど、あらゆる方法でエッチなことをしようとする。

戸田真琴
人ってエロいことしようとすると、そんなに頭が働くんだ! よくこんな創意工夫が働くよな〜、って青野くんを読んでいると感心するんですよね。
椎名うみ
スケベなんですよ。
戸田
そのスケベ、マジでめちゃくちゃわかる。
椎名
戸田さんが好きなエロは、どんなところ?
戸田
すごくキモいことを言うかもしれないんですけど(笑)、1巻で青野くんが藤本くん(青野くんの生前の友人であり、青野くんを成仏させる手伝いをする)の身体に入って、優里ちゃんにキスするときに、こう、乳の下に手を……。
『青野くんに触りたいから死にたい』3巻P16より。藤本くんの身体に憑依した青野くんが優里にキスし、それを覚えていた藤本くんに責められる。 ©︎椎名うみ/講談社

椎名
触ってるとも触ってないともいえるとこですね(笑)。
戸田
天才ですよ。私、人の性欲が基本的に好きではないというか。「最悪だな」と思うような利己的な性欲を目にすることもあるし、もっと切ないものとしての性欲を目にすることもある。特にこの仕事をしていて、質の良くない性欲をぶつけられたりすると「なんだその投げやりな性欲は! もっと性欲について真面目に考えろ」ってムカつくこともある。いろんな人がいる中で、私にとって青野くんと優里ちゃんはすごく綺麗な人だなと思うんです。青野くんなんて、自分の思っていることをわかりやすく相手に出そうとしないじゃないですか。「僕は今悲しんでます」とか、「そんなことしないでほしい」とか言うのはよっぽどのときで、いちいち自分の感情をアピールしない人だと思う。そういう人に性欲があるっていうのが私はすごくツボなんです。理性が強いし、自分の感情をコントロールしようと振舞っている人が見せてくれる性欲って、めっちゃ嬉しくないですか? 悲しいとき「悲しい」って騒げない人にある性欲だから、めちゃくちゃ尊いんですよ。
椎名
はあ〜、確かに! あの私、多分そうは見えないと思うんですけど、すごい理性が強いんです。だから、理性がきかない人が大好きなんです。理性がきかなくて、感情がそのまま飛び出してる人を見ると、感動して、性的に興奮するんです。でもそれを言われて、理性で抑えている人が出す性欲もいいもんだなって思いました。
戸田
自分の本心を出さないように調整しているところがエロいんです。もしかしたらそれは、生きていく上でそうならざるを得なかったのかもしれないんですけど。
椎名
私は理性が弱い優里の方が好みなんですよね。全部丸出しで、「隠せませんでした」っていう子だから(笑)。
戸田
なんとなく、『青野くん』を描いている椎名さんは、優里ちゃんみたいな人が描いているんだろうなってイメージがあって。
椎名
たぶん私のなかには優里ちゃんも青野くんもどっちも性質としてあるんじゃないかな。でも、理性の働かせ方でいうと青野くんが近いかも。戸田さん、藤本くんはどうですか?
戸田
藤本くん大好きですけど、大好きなんですけど……っ!
椎名
箸にも棒にもかかりませんか?
戸田
すごく好きだし、藤本くんみたいになりたい……いや、なりたくないですね。藤本くんみたいな人間だったら、人を幸せにすることや、ちゃんと生きることができたかもしれないなって思えて、ものすごく羨ましいんですけど。でも私は、自分の偏った人間性に愛着が湧いてしまっているので、それを捨ててまで藤本くんになりたいっていうのは嘘なんだろうな。人として好きな相手に、「車に轢かれるときは身代わりになるから呼んでね!」みたいに、ストレートに好意をぶつけてしまうときがあるんですけど、私に見返りがほしいって気持ちはまったく存在しない。そういう、性欲とは関係のない友愛のような気持ちで、藤本くんのことはただ好き、いい人間だな、綺麗だなと思うんですけど。性欲は湧かないです。
椎名
性欲が一切湧かないんだ~!
戸田
青野くんがめちゃめちゃエロいと思います、私は。

明日消えるかもしれない感情だから、生まれた瞬間に出さなきゃって思う。

戸田真琴さんはこれまでに二冊の本を出版している。彼女が文章で書くのは、現役セクシー女優である彼女自身が感じる不安定さ、愛、生き方……。その本を読んで椎名先生は、戸田さんの価値観に似た部分と、異なる部分を見つけたのだとか。エロの価値観が真逆だと分かった二人だが、それは性欲をコントロールする理性からきている。理性は、そもそも自我が影響しているのではないか、と話はさらに発展する。

椎名
戸田さんの本を二冊読んで、価値観が似ているところと、価値観が違うところがあるんだけど、戸田さんが煌々と燃えているところをずっと見ていたいなって思いました。なんか戸田さんって猛り狂うライオンみたいな博愛だから。
戸田
それをそのまま出すのは迷惑だということを、大人になってから知って。めちゃくちゃ迷惑な人間だったと思います、ずっと。
椎名
大変だったね。
戸田
顔に全部出るんですよ、「好き」とか「嫌い」とかが。
椎名
戸田さんは、すごく自我がはっきりしてますよね。私、物心つくのがめっちゃ遅かったんです。たぶん気質の問題だと思うんですけど、人の言ったことを全部信じちゃう、すごく危うい子どもでした。極端な例ですけど、私はコンビニに行ってないのに、他者に「コンビニに行ったよね?」って言われたら、「覚えてないけど行ったのかー」ってなっちゃうような。さすがにそれは小3とか小4くらいまでだったと思うんですけど、自我が希薄なんです。今も、素直に生きたいから素直に生きてるだけで、選ばないと感情は出てこない。心に感情が生まれたときに、出すか出さないか自分で選別してるんです。だから、選別できないでオートマティックに感情が出てくる人にびっくりしちゃって。だから私はそういう人を見ると救われるし、好きだなぁと思います。
戸田
よかった。すごく周りに迷惑をかけてると思うので……。今はおとなしくなった方です。
椎名
元ヤンみたい(笑)。
戸田
なんかもう、明日消えてなくなるかもしれないじゃないですか。だからこそ、「感情が生まれた瞬間に出さなきゃ」みたいな強迫観念がすごくあるのかもしれない。
椎名
そういう仕組みか〜。どうして、明日なくなるかもしれなかったら出さないといけないの?
戸田
そのときに出さないと、誰も知らないまま、あったのか、なかったのかすらわからなくなってしまうからですかね。
椎名
そんなこと考えたことなかった。面白いね。

『青野くんに触りたいから死にたい』は、魂を燃やすための一本の薪。

単行本でも『青野くん』を集め、さらに連載中の『アフタヌーン』でも追っているという戸田さん。作品を自身の気持ちを重ねながら読み込んでいる彼女が、物語の核心に迫る。

戸田
『青野くん』を読んでいると、一話ごとにもそうだし、一巻ごとにも、爆裂に感情がズタズタになる、良い意味で胸が張り裂けてしまうような瞬間が絶対にありますよね。一話、一巻ごとの構成はバランスを見て置いているんですか? それともいつの間にか生まれ出ているもの?
椎名
一話、一巻、一幕ってだんだん区切りが大きくなっていくんですが、その区切りの中にカタルシスが存在しないと、物語が成立しないんですよね。なので、たぶんそのカタルシスのところなんだと思います。実はこの作品は三幕構成で、三巻の……優里が山で「キスを返して」って言ったときが一幕の終わり、最新刊までの『四つ首様編』が終わると二幕が終了します。
『青野くんに触りたいから死にたい』3巻P38より。ここが一幕の終わりだった。 ©︎椎名うみ/講談社

物語は三幕に突入し、クライマックスも近づきつつある。BRUTUSでも「二人が離れ離れにさえならなければハッピーエンド」と戸田さんは語っていたが、どうなるのか……。

椎名
私はプロットが書けないから、話がどうなるかわからないんですよね。だから、ラストをまとめるときのプレッシャーがすごくて。ちゃんと終わるのかなと思って(笑)。
戸田
『青野くん』に関しては、純粋に椎名さんが描きたいことを描くべきだな。筆が運ばれていく先をただ見てみたいって気持ちがあるんです。けど、すごく個人的に、共感……「共感」っていうと言葉が軽くってすごく嫌なんですが、「自分みたいだな」と思う瞬間がたくさんあります。自分自身の悲しみとか、むなしさとか、幸福とかと切り離せないまま読んでしまう。共感できる作品がほとんどないのが当たり前って思いながらに生きていたんですが、こういう作品に出会うと、共感できるものが少ないことが、いいのかなと思えて。少ないからこそ、一生大事にしたい。
椎名
戸田さんは魂の純度が高いから、そのまま命を燃やしてほしいです。なんか、戸田さんが命を燃やしてて、戸田さん自身も、戸田さんの人生で起こったことも薪になっている。たくさんの薪が積み重なって燃えているんですけど、私はその大きな炎を見上げて感動しちゃって、私が持ってる小さな薪も一本くべて、炎に祈りたいです。
戸田
燃えますよ〜! 燃えます。もし、「燃えていないな」って思ったら見返すものがいくつかあるとするじゃないですか。自分にとって大切な言葉とか、映画とか、マンガとか。『青野くん』は絶対にそのうちのひとつだなって思っているので。
椎名
前に戸田さんが、私にDMで連絡をくれたとき、「“ずっと”って言葉は証明できないものだからあんまり使いたくないけど」って言ったじゃないですか。戸田さんが私のマンガを読んでくれて、感動してくれて、それで作家としても私のことを好きになってくれた。もしかしたらこの先、戸田さんの気持ちが変わることがあるかもしれないけど、戸田さんが私のマンガを読んだことを話してくださったのも、今ここで私と戸田さんが共有したものも、永遠だと思うから。「こんな風に自分の心の中に入って、自分のことを揺さぶったんですよ」っていうのを戸田さんの全部で伝わるように私に投げてくれたことが宝物なので、今日のことが私の永遠になりました。ありがとうございました。
戸田
永遠っていう言葉の正しい使い方をする人、あんまり見ないんですけど、今出てきた永遠って言葉がしっくりきました。ほんとにそうだと思う。
椎名
やったぜー(笑)!

「愛の本質」をテーマにした#01はこちら
椎名うみ先生サイン入り色紙&単行本プレゼント企画はこちら

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

しいな•うみ/神奈川県出身。2015年漫画誌『アフタヌーン』(講談社)で掲載された『ボインちゃん』でデビュー。翌年、同じく『アフタヌーン』で『青野くんに触りたいから死にたい』を連載スタート。最新7巻が2020年秋に発売予定。

とだ・まこと/セクシー女優、文筆家、映画監督。2016年にSODクリエイトから女優デビュー。19年に初のエッセイ『あなたの孤独は美しい』(竹書房)を上梓。最新刊『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(KADOKAWA)が好評発売中。

Text/
Chihiro Kurimoto

本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.917
マンガが好きで好きで好きでたまらない(2020.06.01発行)

関連記事