エンターテインメント

ウォレス・バーマン 逮捕(前回の続き)。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 917(2020.06.01発行)
マンガが好きで好きで好きでたまらない

 アメリカの1950年代、60年代にロサンゼルス、サンフランシスコと西海岸で活動し、事典的にいえばビートからポップ、ジャズからロックへの移行期を鋭く厳密な姿勢で生きた(プロのギャンブラーでもある)アーティスト、ウォレス・バーマンは、しかし、生涯1回しか商業ギャラリーでの個展をやっていない。そのわずか1回の個展(1957年)もオープニングの日に、わいせつ物陳列容疑でバーマンは逮捕、拘留されたため、関係者以外ほとんどこの個展を見ていないありさまであった。息子のトッシュは前回の連載で紹介した自伝『TOSH』で、この逮捕劇にフェラス・ギャラリーの共同経営者でもあったアーティスト、エド・キーンホルツのタレこみを疑っていた。ライバル心は異常なほどだったらしいからだ。どちらが女にもてるかというレベルの低い次元でもライバル視はやまなかった。美術史的にはキーンホルツのほうが圧倒的に有名であって、その立体コラージュ=アサンブラージュは、たとえば小説界きってのアートの目利き、作家のジョン・アップダイクによるオマージュが知られる(『イーストウィックの魔女たち』)。

 警官が最初から狙っていたように押収したのは、〈テンプル〉という立体作品の中に置かれた小冊子『SEMINA(種)』の、バーマンのものではないイラストであった。だれも中は見ることのできない、つまりわいせつ物陳列にはあたらない冊子の中をどうして警官が知ることができたのか? 本来、だれの目にもはっきりとわかる性器結合の写真入れ込みの作品には警官は目も留めなかったらしい。関係者のタレこみ関与はまちがいのないところであろう。

 こうしたミステリアスな事件もあって、バーマン神話への道がひらかれたわけだ。このときのフェラス・ギャラリーのもう一人の主宰者が、1950年代以降のロサンゼルスのアート・シーンをきわめて刺激的なものにしたギャラリスト、ウォルター・ホップスである。15歳から人脈をつくった彼を有名にしたのは、1963年のパサデナ美術館ではじめてといっていい大規模な『マルセル・デュシャン回顧展』のキュレーションであった。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.917
マンガが好きで好きで好きでたまらない(2020.06.01発行)

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