エンターテインメント

上出遼平と圡方宏史、ドキュメンタリーの名手が語る、究極のリアリティとは。

BRUTUSCOPE

No. 917(2020.06.01発行)
マンガが好きで好きで好きでたまらない

話題のテレビディレクターが観る作品とは?

元少年兵、カルト教団、ギャングやマフィアの生活を追い、その食に迫る『ハイパーハードボイルドグルメリポート』。テレビ東京のディレクター・上出遼平さんは、自ら危険な場所に足を踏み入れ、彼らの姿をありのまま伝えた。一方、東海テレビの圡方宏史さんは、映画『さよならテレビ』で自らの職場であるテレビ局の報道部を撮った。2人の作品に共通するのは圧倒的なリアリティ。核心に迫るドキュメンタリー作品で観る人の価値観をひっくり返す2人が、影響を受けた作品について語った。

圡方宏史
僕、今日ビビってます。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を拝見しましたが、あんな危険なところに行っちゃう人だから、上出さんって怖い人なのかなと思って。
上出遼平
いやいや(笑)。怖くないですよ。
圡方
ところで『ハイパー〜』は、僕の大好きな作品『アクト・オブ・キリング』(1)を彷彿とさせます。この作品に出てくる大量虐殺の加害者たちも、上出さんが『ハイパー〜』でカメラを向けた人たちも、一見とんでもないやつらだけど、生活圏内に入ってみたら自分たちと同じ人間だった。すごく衝撃を受けました。
(1)『アクト・オブ・キリング』インドネシアでは、60年代に起きた大量虐殺の加害者が英雄視されていた。彼らにその惨劇を再現させると、ある変化が。監督はジョシュア・オッペンハイマー。写真:Everett Collection/アフロ

上出
光栄です。ドキュメンタリーを撮るうえで、価値観や思い込みを壊すことが、エンターテインメント性を担保する装置である気がしています。圡方さんの『ヤクザと憲法』もそうですよね。ヤクザの見え方をガラッと変える経験をさせてくれました。僕たち、ドキュメンタリーで撮りたいものの根本は同じなのではないでしょうか。
圡方
世の中にまかり通っている価値観を、別の角度から見るという部分は共通していますよね。そして、自分の主張を裏づけるためではなく「視聴者が行けないところに、私が代わりに行ってきました」という姿勢で見せるという、作品の作り方も似ているかもしれません。上出さんは、マーケティングを想定して番組を作っていないでしょう?
上出
おっしゃる通りです。『ハイパー〜』に関して、ゴールは「飯を食う」。それだけ。現場は僕の興味だけで進んでいきました。圡方さんの『さよならテレビ』は独特な構成だったので、やらせなんじゃないかとも言われたと思うのですが。圡方さんも僕も、事前に仕込んで、構成することを面白いと思っていないですよね。
圡方
ゴールに目星をつけてそれに向かって撮っていくのがテレビの公式。僕らは現場で起きたことを面白がりながら膨大な量を記録し、それを編集していく。公式からかけ離れた、一見非生産的な方法ですが、それが今視聴者に求められていると感じます。そういう意味で共通するのは『イカロス』(2)ですね。スタート地点とゴール地点が全く変わってしまっています。
(2)『イカロス』ドーピング問題を追うため、監督自らドーピングをしてロードレースに臨む。辿り着いたのはロシアの国家ぐるみの巨大な陰謀だった。Netflixオリジナル映画。

上出
『イカロス』は本当に面白い。
圡方
ドーピングの体験を記録していたらとんでもない陰謀に巻き込まれてしまうという。そして『チェルノブイリ』(3)も好きです。ドキュメンタリーではなくドラマなのですが、撮り方も含めてリアリティそのもの。ドキュメンタリーを撮る僕から見ても、とても面白いです。
(3)『チェルノブイリ』チェルノブイリ原発事故の背後にあった保身、嘘、隠蔽。事故の真実を、実話に基づいて描く全5話のミニドラマ。漂う緊張感と衝撃的な映像に思わず息を呑む。 写真:Collection Christophel/アフロ

上出
僕が挙げたいのはまず『カルテル・ランド』(4)。善と悪に明確に線を引こうとすると、善も悪に変わってしまうリスクを伴う。完璧な人間は一人もいないという真実を見せつけられて、すさまじさを感じました。『ジョニー・マッド・ドッグ』(5)はリベリア内戦の話です。『アクト・オブ・キリング』と構図が似ているところがあり、元少年兵が俳優として出演しています。演技とは何かを、この作品を通して考えることができます。人は誰しも、それぞれの立ち回りを演じています。そこにカメラが存在したらそれなりの演じ方をする。演出とリアルという境目を考えるうえでも参考になりました。
(4)『カルテル・ランド』生活を脅かすメキシコの麻薬カルテルから身を守るため、市民は自警団を結成。正義の名の下に武器を手にして取った行動とは。監督はマシュー・ハイネマン。 写真:Everett Collection/アフロ

(5)『ジョニー・マッド・ドッグ』内戦で混乱するリベリアで略奪や殺人を繰り返す男たちや戦争の混沌を描く。実際の少年兵をキャスティングし鬼気迫る映像に。マチュー・カソヴィッツが製作。 写真:Everett Collection/アフロ

圡方
ここに挙げた作品は、衝撃的なものが多いですが、ドキュメンタリーは「極限のものを撮るぞ!」と意気込むと撮れない気がしています。期待を持たず「見たことないものを見に行く」という姿勢を大事にしていきたいです。
上出
ドキュメンタリーは普段目を背けているものに、目を向けさせるもの。コロナ禍で様々な問題が炙り出されていますが、これからも根底は変えず、粛々と撮っていきたいですね。
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上出遼平

かみで・りょうへい/1989年生まれ。テレビ東京制作局ディレクター。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』では、身一つで取材先に乗り込む。書籍版は朝日新聞出版から発売。

圡方宏史

ひじかた・こうじ/1976年生まれ。東海テレビ報道部ディレクター。毎日ニュースを伝える傍ら、ドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』などの監督も務める。

text/
Saki Miyahara

本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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