エンターテインメント

【近日公開予定】繊細で不安定な10代。その葛藤と成長を描いた注目映画2作。

BRUTUSCOPE

No. 917(2020.06.01発行)
マンガが好きで好きで好きでたまらない

教師と生徒、心の触れ合いがもたらすもの。

 コロナ禍の自粛要請の中、私たちの生活には様々な制限が生じているが、その一つが教育の機会である。そこでオンライン授業の可能性が模索されているが、それで教育の遅れは回避できたにせよ、私たちが懸念するのは、果たして教師と生徒や生徒同士の「触れ合い」なくして、真の意味での教育が実現できるのかどうかということだ。

 その問いに対する答えに示唆を与えてくれるかもしれない2本の映画が公開される。一つは、韓国の新鋭キム・ボラ監督の『はちどり』だ。1994年に中学2年生になった孤独な少女ウニ。この年は韓国にとって、北朝鮮の金日成の死、そしてソンス大橋の崩落事故という忘れ難い2つの事件が起こった年でもある。そんな中、ウニは学校のクラスにも馴染めず、また家父長制の色濃く残るこの時代の韓国の家庭さながら、父や兄から言葉や肉体的な暴力を受け、家でも居場所を見出せないでいる。そんなウニがようやく心を開くことができたのは、通っている漢文塾に新しく赴任してきたヨンジ先生だった。彼女との語らいや触れ合いを通して、ウニは女の子であっても声を上げることの大切さを学んでいく。しかし、そんな2人の間にも、ソンス大橋の事故が大きな影を落とすことになるのだ。

『はちどり』監督・脚本・製作:キム・ボラ/出演:パク・ジフ、キム・セビョク、イ・スンヨン、チョン・インギほか/本作が初長編作となるキム・ボラ監督が、自身の少女時代の体験を基に描いた。ベルリン映画祭をはじめ、世界各地の映画祭で賞を受賞。近日公開予定。 ©2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.

 もう一本は、ベルギーのダルデンヌ兄弟の新作『その手に触れるまで』である。ベルギーもアラブ系の移民が多いが、13歳になったアメッドは導師の教えに感化され、イスラム原理主義にのめり込んでいってしまう。さらには、穏健派の放課後クラスのイネス先生を背教者だと名指しし、事もあろうにアメッドは彼女を殺めようとしてしまうのだ。そして彼は少年院に収監されるが、その年頃の男の子の純粋さゆえか、周りの大人たちの声には一切耳を貸さず、絶望的なまでに先生への殺意をますます研ぎ澄ませていく。しかし、この映画は最後に一条の光を私たちに見せてくれる。そしてそれを与えるのは、彼と先生とを隔てる物理的な距離(壁)ではなく、結局は直接的な触れ合いを通してなのだ。

『その手に触れるまで』監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ/出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ビクトリア・ブルックほか/ダルデンヌ兄弟にとって、初のカンヌ国際映画祭監督賞の受賞作。近日公開予定。 ©Les Films Du Fleuve - Archipel35 - France 2Cinema - Proximus - RTBF

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Mikado Koyanagi

本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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