MV「Lemon」をはじめ話題作の映像を手がけるカメラマンが、映画監督に挑むにあたり、メッセージ交換。
俳優・菅田将暉が語る、今村圭佑の映像の魅力。
"オシャレな味の素"。それくらい信頼感と中毒性がある。
今村さんとは出会いを覚えていないくらい、たくさんの仕事でお世話になっています。ラフに撮りつつも、その場の勢いみたいな瞬間もアグレッシブに撮ってくれるから楽しい。映画『帝一の國』では、ボソボソっと「あの顔良かったよ」と抑えきれない感じで褒めてくれて嬉しかったです。その感情が画面から伝わるのか、今村さんの映像は信頼感だけじゃなく中毒性もあって、もはや「オシャレな味の素」。監督の求めるもの、被写体の良さ、それをお客さんに見せるときの切り取り方などのバランスが絶妙で。でも、総じてどこかドラマティックで映画的なんですよね。また、いつもカメラマンとして、監督や演者を尊重している印象があるので、映画監督のときの今村さんがどんな感じなのか全く読めないけど、新作が楽しみです。ちなみに映画『ANIMA』を知っていますか? いつかこういう作品を一緒に作ってみたいです。好きな女性のタイプも教えてください。今度、飲みに行きましょう!
今村圭佑が語る、映画監督にチャレンジした理由。
言葉ではなく、自分らしく映像で伝えることにこだわった。
菅田くんを初めて撮影した映画『星ガ丘ワンダーランド』は、僕がまだカメラマンを始めたての頃。菅田くんは二十歳過ぎで、現場での立ち位置が近く勝手に親近感が湧いていました。中村倫也くんとの喧嘩シーンがとても良くて、それを機に話したことを覚えています。菅田くんってすごくカッコいいのに、役によってちょっとブスな顔ができるのも魅力的です(笑)。
さて、僕が初監督をした映画『燕 Yan』。母に捨てられた主人公の燕が、葛藤しながらも音信不通だった兄を訪ねて台湾・高雄に行く、そんなストーリーです。もともと映画監督をするつもりはなかったんです。でもカメラマンになって5年経ち、何か新しいことができたらいいなと思っていた時期にこのお話をいただいて。MVやCM、映画とか、それぞれに"それっぽい"ってあると思うんですけど、違う分野の経験が掛け算になると、ちょっと新しいものに見えるというか。カメラマンが監督をやることで、新しい何かを見出せたら、と挑みました。まずはプロットが上がった段階で、台湾に行き、撮影場所を探すところから始めました。僕の中にあるテーマを、言葉ではなく、映像でどう伝えていくかを大切にしたかったから。どこか懐かしさを感じる場所を探し、撮影場所をもとに、脚本を変えてもらったりもして、徹底的に映像にこだわりました。難しかったことといえば、カメラを持つとカメラマンの脳で撮らないとうまくいかなかったことかな(笑)。客観的に良い悪いを判断する監督と、主観的でつい気持ちが入るカメラマンの立場、2つに職業が分かれている意味がわかった気がします。また、台湾と日本のスタッフが一から一緒にもの作りをすることで、その雰囲気が、もう一度家族を構築していくストーリーともリンクしたのも良かったです。
最後に菅田くんからの質問だけど、なんでそんなこと聞くんだろう。でも、菅田くんらしいですね。僕は人間として欠落しているから、叱ってくれる人がタイプです(笑)。教えてくれた『ANIMA』もチェックしておきます。ちなみに僕が菅田くんと作るなら、菅田くんがデカいアメ車に乗って女の子をはべらかす作品とかどうかな? 派手でオシャレなのに、ちょっとダサい、そんな感じ。いつか撮らせてください。
『燕 Yan』
幼少期に母に捨てられた燕。二十余年後、複雑な思いを抱えながらも離れ離れになっていた兄を訪ね台湾・高雄へ旅立ち……。再会を機に互いに成長する兄弟を美しく繊細に描く。監督・撮影:今村圭佑/出演・水間ロン、山中崇、一青窈ほか/6月5日から、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開予定。
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- Kisae Nomura
本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。