2020年、新型コロナウイルスによって私たちの日常は激変した。終わりの見えないコロナの時代の日常を救うのはフィクションの力! 笑ったり泣いたり思い出したり学んだり。家での時間を楽しむための24作を、マンガ愛に溢れる4人の識者が厳選しておすすめ。
日常って素晴らしい(家族、近所、共同生活。「当たり前」ってこんなに尊い。)
【70歳にして子を持つことで、日常生活がガラリと変わる。】
僕も幼い子供がいるので、子育てのマンガはどれを読んでも面白いんですが、これは別格。70代っていうと人生のエキスパートのように思えるけど、彼らにとって妊娠そして出産、育児は何もかも初めてで、そのド素人感がいい。また、妻が昼寝をしてると焦って夫が脈を確認したり、年齢が年齢なだけに些細なことから死を想起してしまい、日常のあらゆる出来事にドキドキさせられてしまう。
未知の敵との戦い(SNS、宇宙、ウイルス舞う島、生物が消えた地上でどう生きる?)
【本当に怖いのは誰か?顔が見えない敵に挑む。】
この物語では悲惨な殺人事件が起きるんですが、怖さの本質はそこじゃありません。この本で描かれているのは、殺人事件の真相ではなく、事件がインターネット上でどのように消費されていったか。敵は犯人ではなく、SNSにいる見えない人たち。それに対する主人公の対応がすごくて、完全スルーを決め込むんです。ネット社会の病理を鋭く描きつつ、危機管理術を学べる一冊かなと。
想像力で旅に出る(異世界、魔界、怪奇もござれ。ファンタジーの世界へいざ!)
【世界中の紛争問題に、地政学で斬り込む。】
周囲のマンガ読みがこぞって話題にする一冊。これは何かっていうと現代社会版の女性「ゴルゴ13」みたいなもの。タンザニアやウクライナ等、簡単には行けない場所で“今”どんな問題が起きているかを教えてくれ、自然と世界情勢に詳しくなる。民族や宗教、言語や思想、何かが違うと分断が起こり紛争に発展する、その仕組みも見ていて面白いし、地政学を使ってどう解決していくかも見もの。
壁だらけの恋に浸る(禁忌、タイムスリップから同性愛まで。愛の力は壁を超える!)
【文学的な表現で描いた、少女の心の揺れ動き。】
フィギュアスケートに打ち込む少女ティリーが、傷つきながら成長していく青春譚。彼女は幼い頃に自分が同性愛者であることに気づくんですが、悪いことだと思って隠す。何度も恋愛をするんだけど報われない。やがて彼女ができて安堵していたら、親に知られて引き離されてしまう。まったく体験したことのない出来事なのに自分事のようで、終始揺さぶられっぱなしの物語。天才的な筆力です。
最高の家メシを(手軽で美味な家メシをマンガで味わう。真似したくなる作品。)
【画面から湯気が出てきそう! 一コマにかけた情熱を見る。】
あえてのクッパパ。メシマンガのストーリーって全然興味ないんで。じゃあこのマンガの何が好きかっていうと、毎回必ず登場する料理完成の一コマ。描き込みも多くトーンの削り方一つとっても尋常じゃない力の入り方をしていて、料理への執念のようなものが感じられる。まるでモノクロで描かれた絵画を見ているようで、お腹が空いてくる。レシピも家で簡単に作れそうなものが多いのもいい。
ただただ笑いたい!(笑う門には福と免疫が来るとか。マンガで頭と心を揉みほぐそう。)
【じわじわとくる笑いの、いましろワールド。】
いましろ作品を僕はギャグマンガというよりは「詩」のように受け止めていて、そういう意味で『引き潮』は句集に近い。おっかしいことがたくさん描かれているんだけど、決して川柳のようなものではない。ギャグマンガの多くは、川柳みたいな笑いのカタチをしてるような気がするけれど、時々めちゃくちゃポエジー溢れるものがあって、それが好き。人間って、ほんとどうしようもない。
- text/Shima Kadokura, Nobunaga Minami, Hikari Torisawa, Keiko Kamijo
本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。