エンターテインメント

編集者・伊藤ガビンが選ぶ、テーマ別おすすめマンガ6選。

4人の識者が厳選しておすすめ。“こんなとき”だから読むマンガ24選。

No. 917(2020.06.01発行)
マンガが好きで好きで好きでたまらない

2020年、新型コロナウイルスによって私たちの日常は激変した。終わりの見えないコロナの時代の日常を救うのはフィクションの力! 笑ったり泣いたり思い出したり学んだり。家での時間を楽しむための24作を、マンガ愛に溢れる4人の識者が厳選しておすすめ。

日常って素晴らしい(家族、近所、共同生活。「当たり前」ってこんなに尊い。)

『セブンティウイザン/タイム涼介』夫65歳、妻70歳。合計135歳の夫婦のもとにやってきた新しい命。何もかもリスクだらけで周囲から猛反対されながらも、産む選択をした新米パパママが繰り広げる、笑って泣けるホームドラマ。全5巻/バンチコミックス(新潮社)。

【70歳にして子を持つことで、日常生活がガラリと変わる。】

僕も幼い子供がいるので、子育てのマンガはどれを読んでも面白いんですが、これは別格。70代っていうと人生のエキスパートのように思えるけど、彼らにとって妊娠そして出産、育児は何もかも初めてで、そのド素人感がいい。また、妻が昼寝をしてると焦って夫が脈を確認したり、年齢が年齢なだけに些細なことから死を想起してしまい、日常のあらゆる出来事にドキドキさせられてしまう。

未知の敵との戦い(SNS、宇宙、ウイルス舞う島、生物が消えた地上でどう生きる?)

『サブリナ|ニック・ドルナソ/著 藤井 光/訳』シカゴで消息を絶った女性サブリナが殺害され、その模様を撮影したビデオがインターネットに流出し陰謀説が立ち上がり、遺族の生活を損なう。真相はいかに。イギリスでブッカー賞の候補作にまで選ばれた快作。全1巻/早川書房。

【本当に怖いのは誰か?顔が見えない敵に挑む。】

この物語では悲惨な殺人事件が起きるんですが、怖さの本質はそこじゃありません。この本で描かれているのは、殺人事件の真相ではなく、事件がインターネット上でどのように消費されていったか。敵は犯人ではなく、SNSにいる見えない人たち。それに対する主人公の対応がすごくて、完全スルーを決め込むんです。ネット社会の病理を鋭く描きつつ、危機管理術を学べる一冊かなと。

想像力で旅に出る(異世界、魔界、怪奇もござれ。ファンタジーの世界へいざ!)

『紛争でしたら八田まで/田 素弘』地政学リスクコンサルタントで眼鏡美人の八田百合。彼女の仕事は交渉屋。地政学に基づいた知性と腕っぷしでミャンマーやタンザニア等、世界中を駆け巡り、様々な事件をチセイで解決する。既刊1巻/モーニングKC(講談社)。

【世界中の紛争問題に、地政学で斬り込む。】

周囲のマンガ読みがこぞって話題にする一冊。これは何かっていうと現代社会版の女性「ゴルゴ13」みたいなもの。タンザニアやウクライナ等、簡単には行けない場所で“今”どんな問題が起きているかを教えてくれ、自然と世界情勢に詳しくなる。民族や宗教、言語や思想、何かが違うと分断が起こり紛争に発展する、その仕組みも見ていて面白いし、地政学を使ってどう解決していくかも見もの。

壁だらけの恋に浸る(禁忌、タイムスリップから同性愛まで。愛の力は壁を超える!)

『スピン|ティリー・ウォルデン/著 有澤真庭/訳』ニュージャージーからテキサスの高校へ進んだアイススケート好きで同性にときめく女の子の話。常にひそかに恋をし報われるなんて考えない。ティーンエイジャーの日常を淡々とかつ丁寧に描く自伝的な作品。全1巻/河出書房新社。

【文学的な表現で描いた、少女の心の揺れ動き。】

フィギュアスケートに打ち込む少女ティリーが、傷つきながら成長していく青春譚。彼女は幼い頃に自分が同性愛者であることに気づくんですが、悪いことだと思って隠す。何度も恋愛をするんだけど報われない。やがて彼女ができて安堵していたら、親に知られて引き離されてしまう。まったく体験したことのない出来事なのに自分事のようで、終始揺さぶられっぱなしの物語。天才的な筆力です。

最高の家メシを(手軽で美味な家メシをマンガで味わう。真似したくなる作品。)

『クッキングパパ/うえやまとち』博多でサラリーマンをする荒岩一味。料理が苦手な妻の虹子と長男まこと、長女のみゆきの4人家族。父が精魂込めて作る温かい食事を囲む仲良し家族の日々。30年以上を誇る人気連載。既刊153巻/モーニングKC(講談社)。

【画面から湯気が出てきそう! 一コマにかけた情熱を見る。】

あえてのクッパパ。メシマンガのストーリーって全然興味ないんで。じゃあこのマンガの何が好きかっていうと、毎回必ず登場する料理完成の一コマ。描き込みも多くトーンの削り方一つとっても尋常じゃない力の入り方をしていて、料理への執念のようなものが感じられる。まるでモノクロで描かれた絵画を見ているようで、お腹が空いてくる。レシピも家で簡単に作れそうなものが多いのもいい。

ただただ笑いたい!(笑う門には福と免疫が来るとか。マンガで頭と心を揉みほぐそう。)

『引き潮/いましろたかし』なんてことない日常なのに哀しく、じんわり可笑しみが込み上げる人間模様を描く、天才いましろたかしの短編集。読み進めると各編のモチーフが繋がっていき、何度も読み返したくなる。全1巻/ビームコミックス(KADOKAWA)。

【じわじわとくる笑いの、いましろワールド。】

いましろ作品を僕はギャグマンガというよりは「詩」のように受け止めていて、そういう意味で『引き潮』は句集に近い。おっかしいことがたくさん描かれているんだけど、決して川柳のようなものではない。ギャグマンガの多くは、川柳みたいな笑いのカタチをしてるような気がするけれど、時々めちゃくちゃポエジー溢れるものがあって、それが好き。人間って、ほんとどうしようもない。

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いとう・がびん/「編集」を切り口に、紙媒体、ゲーム、映像、Web、展示空間までディレクションし、現代美術作家としても活躍。紙に刷られていない雑誌『modernfart』編集長。女子美術大学短期大学部教授。

text/Shima Kadokura, Nobunaga Minami, Hikari Torisawa, Keiko Kamijo

本記事は雑誌BRUTUS917号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は917号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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