エンターテインメント

【BRUTUS.jpだけの居住空間学・音楽編】数万ものクラシックCDを所有し、リビングをオーディオ・ルームにした家

「クラシック音楽をはじめよう。」BRUTUS.jpオリジナル記事

No. 916(2020.05.15発行)
クラシック音楽をはじめよう。
リビングを占めるオーディオと、北村さんコレクションのなかでも最近よく聴いているCDをピックアップ。「気に入っているCDはリマスターが出たら購入、他にも製造ロットや国、再発時や盤面印刷でも音が変わるため、より良い音を求めて、さらに買い足す。結果同じCDが何枚も増えるんです」。

今回のBRUTUS.jpオリジナル記事は、“特異”な「居住空間学」を持つ音楽マニアに話を聞いてきました。大量のクラシック音楽CDと、それを最高の音質で聴くためのオーディオ機器が生活空間を侵食していく……。BRUTUSの特集『クラシック音楽をはじめよう。』で、クラシック音楽を指揮者別に聴く楽しみ方について解説してくれた、タワーレコードの北村晋さんのご自宅を訪ねました。

同じ曲なのに全然違う

大手CDショップ・タワーレコードのクラシック部門のバイヤーであり、商品開発部の部長である北村晋さん。これまでに数多くのクラシックコンピを企画/制作を手掛け、業界では有名なクラシックCDのコレクターとしても知られる。家にあるCDは優に3万を越え、自宅にある6畳の部屋が全部段ボールで埋め尽くされている。
集めに集めたCDを聴くための、環境づくりも欠かさない。妻と2人で暮らす家のリビングルームには大きなスピーカーが1組と、プリアンプ、パワーアンプに、CDプレイヤーが3台以上……。

コレクターになったきっかけは学生時代に遡る。
「中学一年で吹奏楽部に入ったのがクラシック音楽とのそもそもの出会いで、聴くようになったのは中学二年生の時に、親が突然CDレイヤーを含めたオーディオ一式を買ってきてからですね。最初はオーディオを使ってなんとなくクラシックを聴く程度で。それから、高校時代にオーケストラ部に入部して、先輩でクラシック音楽のマニアがいて、CDをよく貸してくれたんです。聴いていると、『同じ曲なのに、指揮者や楽団、録音違い、なんでこんなにCDが存在するのだろう?』『指揮者が違うだけで、こんなにも聴こえ方が違うのか』『よく聴くと全然違う、CDは1枚あれば良いわけじゃないのか』。そういう気づきがあったんです」
そこからは、どんどんクラシックに耳を傾けていく。
「高校を卒業してから、浪人していたので時間もあった(!?)ので図書館に行ってはCDを借りてきて、カセットにダビングして、FMラジオでながれている曲を録音して。音楽之友社が出しているジャケ付カタログや雑誌『レコード芸術』でCDの情報を集めて、もう夢中でしたね。そんな生活を繰り返して、大学に入学した後に、タワーレコードでバイトを始めるんですけど、そこからはCDの大量収集が本格的にスタート。社販でCDをどんどん買いあさり……、あれから約30年も収集を続けた結果、3万枚以上のCDで溢れかえってます」

妻を説得しています

北村さんはオーディオの試聴イベントを主催するほどのオーディオ通でもある。しかし、愛用のスピーカーは中学2年生の時に親が買ってきた「EXCLUSIVE 2301」を引き継ぎ、35年使い続けている。なぜ、スピーカーは新しいものにしないのだろうか?
「スピーカーは新しいものを買おうと思ったことが一度もないんですよ。スピーカーからいい音を出すために、アンプやプレイヤーを変えて試行錯誤を重ねてます。きっと、小さい頃から聴いていた音なので、僕にとってこのスピーカーからながれる音は替えが効かないものになっているんでしょうね。でも、……もし買うとしたら、部屋がもう一つあって別のもので組みたいなっていう」
CDも欲しいし、オーディオも新しいのが欲しい。日々増えていくコレクションを横目に家族は反対することはないのだろうか?
「ありますよ、妻を説得するのが毎回困難です(笑)。CDの処分を求められる時もあって辛いんですが。以前は家に壁ラックをいくつも置いて収納していたけどね。ここ15年ほどは段ボールにつめて積み上るだけ。もはや選別収納できない状況です。6畳ほどの部屋はほぼCDで埋まって、積み上げたダンボールの高さも2m以上で圧迫感があります。自宅だけじゃなくて、実家にも段ボールがいくつもあって、枚数は3万枚くらい? 所有しているCDはほぼ把握しているものの、どこにあるかは、すぐにわからない。
 かつて当社のお客さんでCDを8万枚持っている人がいて、20畳くらいの部屋がラックで埋まってるらしいんですけど、それぐらいいけたらいいなぁ、と思ってます」
集めても、集めても、終わることのない収集作業。
「最近、どうしても欲しいアーティストに関してはほぼコンプリートしました。しかし、新しい興味が出た瞬間にまた収集が始まるんです。今でも、消滅したレーベルを復刻して再発したもの、CD化されていないLPも膨大にあって、クラシックってキリがないんですよ(笑)」
北村さんはただ好きなCDを集めているだけじゃく、集めたCDが仕事にも繋がっている。そのひとつがコンピレーションアルバムの制作だ。例えば北村さんが制作したベートーヴェンの8枚組アルバム『永遠のベートーヴェン・ベスト~運命はかく扉を叩く・・・』では、ベートーヴェンの曲を洗い出し、セレクト。指揮者別、演奏者別に同じ曲を集めている北村さんだからこそ、数ある音源の中からベストなものを集めてCDにすることができる。
「8枚組では、1枚目には何の曲を入れて、どういうカップリングにして、とかそういうことを考えながらセレクトしました。だいたい2~3ヶ月くらいかかりますね。続いて聴いた時にリスナーがどういう印象をもつのか考えて選びます。最終的な音のチェックもおこない、お客様に完璧なものをお届けできるようにしています」
例え、家は片付いていなくとも、手掛けるアルバムは丁寧に編集、整っている。そして、我々の耳まで良質なクラッシックが届くのだ。

BRUTUS』特集「クラシック音楽をはじめよう。」(916号)。
ベートーヴェンの8枚組アルバム『永遠のベートーヴェン・ベスト~運命はかく扉を叩く・・・』も好評発売中。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む
text/
Eisuke Onda(BRUTUS.jp)

本記事は雑誌BRUTUS916号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は916号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.916
クラシック音楽をはじめよう。(2020.05.15発行)

関連記事