エンターテインメント

バッハから現代までの流れが、ザックリわかる相関図。

最近の曲も“クラシック”ってどういう意味?

No. 916(2020.05.15発行)
クラシック音楽をはじめよう。

 今年のアカデミー賞作曲賞を受賞したのは『JOKER』のサントラを手がけた、作曲家でチェリストのグドナドッティルだった。彼女はアイスランドのエレクトロニカバンドmúmのメンバー。アイスランドといえば、ヨハンソン、シグルズソン、フラームが電子音楽制作で養った独自の世界観を切り開いた。近年クラシック界ともシンクロするアルナルズなども、活躍の場を拡大している。その音楽性を辿ると、ショパンやバッハら西洋の芸術音楽に行き着く。そんな関係性を示すのが上の図である。

 左上、音楽の父と呼ばれるバッハから見ていくと、シェーンベルク、ブーレーズとクラシック音楽のアカデミズムの流れがある。12音技法を開拓し、いわゆる不協和音を多用した、難解といわれる現代音楽の系譜だ。その流れはグリゼーをはじめとするスペクトル楽派へつながる。スペクトル楽派は、音響を音波として捉え、その構造をスペクトル解析するフランスを中心とする潮流。一方、クラシックにはショパンやドビュッシーら軽やかなサロン音楽の系譜もある。サティは酒場でピアノを弾き、BGMの先駆け的な役割を果たした。

 またケージ以降、いわゆる難解な現代音楽に否定的だったグラスやライヒらは、反復や音の引き延ばしなど音楽生成のプロセスそのものに着目した。彼らミニマリストの多くは、その音楽性に電子音楽を取り込んでいく。ちなみに、アンビエントの先駆者イーノはサティが作った「家具の音楽」の影響を公言している。この頃からミニマリストたちはイーノと共闘したり、グラスはデヴィッド・ボウイと組むなどし、活躍の場をポピュラーカルチャーにも求めて行った。

 ここでクラシックの映画音楽との強い結びつきにも触れておこう。1920年のトーキーの発明以降、初期の映画音楽はクラシックの作曲家が主な担い手であり、ルグラン、武満、ナイマンなどは映画音楽の分野でも活躍していく。

 図の下部では、ジャズ、アンビエント、テクノ、ポストロックなどポップカルチャーからの影響を示し、その合流地点に位置するのがリヒター、ヨハンソン、ハウシュカ、オハロラン、ミューリー、シグルズソンといったポストクラシカルと呼ばれる面々だ。彼らはクラシックの素養を持ちながら、テクノやアンビエントといったポップ音楽の電子編集技術を用いた軽やかで耳心地のいい音楽を生み出している。彼らの音楽的背景を読み解くと、リヒターは実際にベリオに師事し、ミニマリズムの作品を実演しつつイーノからの影響を公言、ヨハンソンはグリゼーからの影響を公言していた。ジュリアードを卒業したミューリーはビョークと組んだ。さらに遡れば、ショパンやドビュッシーのサロン音楽はオハロランの耽美的なメロディに息づき、サティから影響を受けたイーノのアンビエントは、ポストクラシカルの耳心地のよさにも通じる。その多くは、クラシックで身につけた教養や技術をベースに、実験的なロックやテクノで培ったセンスと現代音楽の音響的要素も貪欲に取り入れ、映画音楽でも高い評価を受ける現代のクラシック音楽を作り続けている。

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illustration/
Kahoko Sodeyama
text/
Joe Onishi
edit/
Chisa Nishinoiri

本記事は雑誌BRUTUS916号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は916号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.916
クラシック音楽をはじめよう。(2020.05.15発行)

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