エンターテインメント

映画が伝えるレイシズムの過去、そして現在。

BRUTUSCOPE

No. 915(2020.05.01発行)
HOME SWEET HOME 居住空間学2020

世界的に緊張感の高まる今、押さえておくべき注目作とは。

 世界がグローバル化する一方で、皮肉なことにレイシズム(人種差別)が様々な形で顕在化するようになった。ソーシャルメディアにおいても、レイシズムに端を発したヘイトスピーチは後を絶たない。そして、それが現在の新型コロナウイルスによるパンデミック下の世界において、ますます苛烈さを増そうとしている。

 映画も、今から100年以上前に製作されたD・W・グリフィス監督による無声映画の傑作『國民の創生』の頃からすでに、KKK(クー・クラックス・クラン)のようなレイシストを描いてきた。KKKは、南北戦争の直後にアメリカに誕生した白人至上主義たちによる秘密結社だが、その後消滅と再生を繰り返しながら公民権運動の頃にも一度復活する。そのKKKに、1970年代後半、ある黒人の刑事が白人刑事を身代わりにして潜入捜査するという奇想天外な出来事を描いたのが、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』だった。

 一方、その頃のイギリスは経済が破綻してしまい、生活に苦しむ労働者たちの不満や怒りの矛先は旧英領から戦後やってきた移民たちに向けられていた。それを政治的に利用したのがナショナル・フロント(イギリス国民戦線)で、スキンヘッズをも取り込みながら、ネオナチ的な排外主義を煽動した。それに立ち上がったのが、若いアーティストたちなどからなるRAR(ロック・アゲインスト・レイシズム)というグループだった。そしてその運動は、1978年の10万人規模のデモと、ザ・クラッシュなどのバンドが出演する音楽フェスで頂点に達するのだが、その活動の一部始終を捉えたドキュメンタリー映画が『白い暴動』だ。

(1970年代 イギリス、排外主義)『白い暴動』1970年代のイギリスで、ZINEの発行やライブ等を通して人種差別に立ち上がった若者たち〈ロック・アゲインスト・レイシズム〉を追ったドキュメンタリー。全国順次公開中。

 その後、イギリスはサッチャーの時代を迎え、大胆な政策によって国の経済は持ち直すも、それがかえって貧富の差を生み、失業率は戦後最悪となってしまう。そんな中、一度鎮静化しかけたレイシズムがまた息を吹き返してしまう。未来に希望を見出せない白人のキッズたちの中には、シェイン・メドウズ監督の『THIS IS ENGLAND』のように、スキンヘッズに憧れ、ネオナチ的な活動に身を投じていく者もいただろう。

(1980年代前半 イギリス、ナショナル・フロント)『THIS IS ENGLAND』サッチャー政権下、労働者階級の孤独な少年がスキンヘッズの仲間となりそのままナショナル・フロントの活動に身を投じていくさまを『トレインスポッティング』のようにスタイリッシュに描いた。キングレコード/廃盤。

 その映画の中で「パキ」などとあざけられ、標的にされるのはパキスタン人だったが、逆にパキスタン人コミュニティの側からその時代を描いたのが『カセットテープ・ダイアリーズ』だ。ルートンという地方の閉鎖的な町で、スキンヘッズから差別を受けながら鬱屈とした毎日を過ごしていたパキスタン人の高校生の男の子が、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会い、その歌詞に励まされながら、自分の進むべき道を見出していくポップな青春映画なのだが、これを監督したのは、自身もイギリスのインド人コミュニティの中で育った、『ベッカムに恋して』などで知られるグリンダ・チャーダだ。

(1980年代後半 イギリス、排外主義)『カセットテープ・ダイアリーズ』80年代後半のイギリスで、パキスタン系の男の子がスプリングスティーンの音楽を通して差別に立ち向かっていく姿を痛快に描く青春音楽映画。近日公開予定。

 またアメリカに話を戻そう。90年代の初めに、レイシズムを再燃させるある事件が起こった。軽微な犯罪で逮捕されたある黒人男性に、白人警察官たちが寄ってたかって暴力を振るった映像が流出し、警官たちは起訴されるも裁判で無罪判決が下りたことで黒人たちの怒りが頂点に達し、ロサンゼルス暴動にまで発展したロドニー・キング事件だ。この事件をきっかけに、白人至上主義がまた台頭してくるが、それはKKKならぬ、ヨーロッパ起源のスキンヘッズのネオナチ集団だった。そこから生まれたのが、あの『アメリカン・ヒストリーX』である。

(1990年代 アメリカ、ネオナチ)『アメリカン・ヒストリーX』90年代初頭のロドニー・キング事件を背景に白人至上主義に傾倒するも、そこから脱しようとする兄弟を描いた。ワーナー・ブラザーズ ホームエンターテイメント/2,381円(BD)。

 そして、アメリカにおけるネオナチは、2001年の同時多発テロ以降、イスラモフォビア(イスラム恐怖症)という形でより過激さを増す。そんなネオナチ集団の一つ、ヴィンランダーズのリーダー的な存在だったスキンヘッドで全身にヘイトに満ちたタトゥを入れた青年が、3人の娘を抱えたシングルマザーと出会うことで、これまでの自分の生き方に疑問を持ち始め、果てはそのグループを脱退しただけでなく、タトゥまで消し去り、新しい人生を歩みだしたという実話を基にした映画が、イスラエルの新鋭ガイ・ナティーヴ監督の『SKIN/スキン』である。これは、まさに21世紀の『アメリカン・ヒストリーX』だ。

(2000年代 アメリカ、排外主義)『SKIN/スキン』9.11以降のアメリカで、白人至上主義思想からタトゥとともに抜けようとしたジェイミー・ベル演じる青年を描く鮮烈な映画。同名の短編映画はアカデミー賞を受賞。近日公開予定。

 1970年代以降の英米のレイシズムに対する、外側からだけでなく内側からの闘いも描いてきたこれらの映画。世界的な緊張感が高まりつつある今だからこそ、なおさら観ておくべき価値があるのではないだろうか。

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Mikado Koyanagi

本記事は雑誌BRUTUS915号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は915号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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