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【5月2日全国順次公開予定】ナレなし、音楽なし。テーマなし。想田和弘「観察映画」最新作は老夫婦の日常。

BRUTUSCOPE

No. 915(2020.05.01発行)
HOME SWEET HOME 居住空間学2020
『精神0』ベルリン国際映画祭をはじめ、世界各地で絶賛された『精神』の主人公の一人である精神科医・山本昌知医師が82歳にして突然引退することに。長年にわたり、山本医師を「生命線」のように慕ってきた患者たちの戸惑い。そして、山本医師を待っていた妻・芳子さんとの新しい生活とは。監督・製作・撮影・編集:想田和弘/製作:柏木規与子/5月2日、全国順次公開予定。https://www.seishin0.com/
『精神0』ベルリン国際映画祭をはじめ、世界各地で絶賛された『精神』の主人公の一人である精神科医・山本昌知医師が82歳にして突然引退することに。長年にわたり、山本医師を「生命線」のように慕ってきた患者たちの戸惑い。そして、山本医師を待っていた妻・芳子さんとの新しい生活とは。監督・製作・撮影・編集:想田和弘/製作:柏木規与子/5月2日、全国順次公開予定。https://www.seishin0.com/

何も起こらないけれど、ずしりと響き、残る。

台本やナレーションがないドキュメンタリー映画=観察映画で知られる想田和弘の新作『精神0』。患者一人一人の孤独と対峙し続けてきた82歳の精神科医・山本昌知に10年ぶりにカメラを向けた本作について、旧知の仲でもあるライター、武田砂鉄が訊いた。

武田砂鉄
『精神0』の山本先生と患者さんのやりとりを見て、会話というものは非常に複合的に成り立っているんだなと。対話だけでなく、手を上げたり、体を揺らしたり、山本さんのすべての所作が誠実なコミュニケーションになっている。
想田和弘
普段の私たちのコミュニケーションにおける言語的な比重って、実に小さい部分なんじゃないかなと感じていて。ドキュメンタリーという手法は、その非言語の部分もひっくるめて丸ごと描くことが可能だと思っています。
武田
観察映画は、台本もなく被写体との打ち合わせもないからこそですよね。私が編集者時代に担当させてもらった想田さんの著書『熱狂なきファシズム』に「観察映画に『メッセージはない』」とも書いてあるんですが、『精神0』には「純愛物語」というコピーがつけられてますよね(笑)。
想田
(笑)。本当はキャッチコピーも予告編もインタビュー取材もなく作品だけポーンと公開するのが理想なんです。インタビューで僕の考えを述べてしまうと、作り手の言葉だから映画の見方を固定してしまうところがあります。
武田
「説明」や「解釈」を問う媒体や取材者が肉付けしてしまう状況もありますよね。
想田
それは感じます。日本映画界で残念なのは、「批評が少ない」ということ。映画を観るプロは、インタビューなどせずとも、自分なりの視点でいくらでも批評が書けるはずなんです。あ、もちろん、こうやってインタビューしてもらうのもいいのですが(笑)。
武田
「作り手が用意した見解が作品の正解」という風潮がありますよね。それはおかしい。受け手それぞれの感じ方すべてが正解なわけで。観察映画はBGMもナレーションも、ましてやテロップもない。だから、観る側が色々なことを考えて、それぞれの批評を膨らませられる余白がある。
想田
その方が豊かですよね。作り手がピッチャーだとしたら、観客はキャッチャーじゃなくてバッターだと思うんです。ボールを受け取るんじゃなくて、自分なりに解釈して打ち返してほしいんです。どこに飛ばしてもらってもいい。
武田
「これを観たら、こんな感情が味わえます。こんな刺激がもらえます」というような前情報が求められる。「思ってたのと違った」みたいな損を回避したいというか。だから、「純愛物語」とかわかりやすいキャッチコピーが有効だったり。
想田
「何が描かれてるかわからないけどこの映画観てみよう」って思いづらくなってますよね。テレビのドキュメンタリーを作っていたとき、事前にリサーチして台本を書いて、という予定調和な作り方に違和感があって、その真逆をやろうと思って、15年くらい前から観察映画を作り始めた。でもテレビ時代の、「もっと派手なことが起きないと」とか「要素が足りない」という強迫観念がずっと残っていた。それが観察映画7作目の『港町』くらいからどんどん抜けていって、今回の『精神0』ではすごく解放感があった。場面が5つくらいしかなくて、普通だったら映画の場面にならないようなものばかりなんですけど、それでも一本映画が撮れている確信がありました。
武田
今回、このご時世なのでSkype取材という形になりましたけど、便利な半面、想田さんが画面の外でどういう動きをしているかわからない(笑)。対話してるのに見えてない部分があって、相手が信頼できない気持ち悪さがありました。
想田
(笑)。だから対面で会うことの信頼性の高さを再認識する日々ですよね。
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武田砂鉄

たけだ・さてつ/1982年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターとして活動。15年、初の著書『紋切型社会』が第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。

想田和弘

そうだ・かずひろ/1970年栃木県生まれ。映像作家。93年からニューヨーク在住。台本やナレーション、BGM等を排したドキュメンタリー「観察映画」を提唱。国際映画祭等での受賞多数。

text/
Kaori Komatsu

本記事は雑誌BRUTUS915号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は915号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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