旅と地域

旅の記憶。

From Editors

No. 914(2020.04.15発行)
いつか旅に出る日。
ビッグ・サーのランドマークともいえるロッジ、〈ディージェンス・ビッグ・サー・イン〉に咲き誇る桃の木。しとやかな香りは旅の記憶として刻まれる。

いつだったか、J-WAVEでジョン・カビラが旅に行くときは、いつもと違う香りのキャンドルを持っていくようにしている。と、言っていた。旅の記憶を香りにおさめるためだという。いいルールだと思う。香りによってふとした瞬間に蘇る旅の記憶は、写真でたどる旅の記録とは違って、不意をつかれる感じがたまらないですよね。

ビッグ・サーに訪れたら一度は泊まるべきだといわれるロッジ、〈ディージェンス・ビッグ・サー・イン〉で僕らを出迎えてくれたのは、桃の花のしとやかな香りでした。くわえて、ビッグ・サーを包みこむ潮風に燻されたレッドウッドの香りに訓市くん(野村訓市)はいたく反応していた。メローになると。この香りをビッグ・サー土産にと思い、せっせとスーヴェニアショップをまわってみたものの、キャンドルも石鹸も、収穫はなかった。仕方ないので記憶のフォルダに格納しました。これでいい。

音楽もまた、旅の記憶に不意打ちをかけてくれます。ビッグ・サーを移動中、訓市くんがiPhoneに入れた自身のありものから、ラジオ番組さながら、曲をセレクトしてくれてました。海岸線のカーブが続くころ、彼が選んだのはロバート・パーマーがカバーしたマーヴィン・ゲイの「Mercy Mercy Me / I Want You」でした。きらびやかなアレンジがいかにもロバート・パーマーらしいカバーです(そのゴージャスさが嫌いっていう人もいたりします)。1990年、夏のテーマソングとして長い間、ボクの記憶に刻まれていた曲でしたが、すっかりビッグ・サーの記憶として上書きされてしまいました。これもまたいい思い出です。

いつかどこかで桃の花の香りに出くわしたら、きっとビッグ・サーを思い出すはずです。ふとした瞬間に蘇る旅の記憶っていいものですね。旅に思いを馳せるいい機会かもしれません。これこそTraveling Without Movingーー(低いトーンで)こんばんは、野村訓市です。

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本誌担当編集/
古谷昭弘

本記事は雑誌BRUTUS914号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は914号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.914
いつか旅に出る日。(2020.04.15発行)

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