アート

人が“つくる”こととは何かを一緒に考える。|青木陵子 × 伊藤存

BRUTUSCOPE

No. 914(2020.04.15発行)
いつか旅に出る日。
伊藤 存(左) 青木陵子(右)

青木陵子+伊藤存の2人による石巻での活動から見えたこと。

 人が日々の生活の中で何かを“つくる”とはどういうことなのか。青木陵子さんと伊藤存さんが長年かけて取り組んできた“つくる”の集積が、ワタリウム美術館で体感できる。ワークショップという展覧会名を見ると、何かを体験する講座のようなものを思い浮かべるかもしれないが、彼らは近年の作品制作のプロセス自体がワークショップだと語る。

 本展は、2000年頃から2人で制作を続けているアニメーション作品《9才までの境地》と、17年と19年に参加したリボーンアート・フェスティバルでの活動を再構築し、“つくる”過程において何を考え、どのように手と頭を動かし、人やものとの関係を築き上げてきたのかを鑑賞者が追体験できる展示となる。

 というわけで、青木陵子+伊藤存が参加した過去2回のリボーンアート・フェスティバルについておさらいしたい。これは、宮城県の牡鹿半島と石巻市街地を主な舞台とし2017年からスタート。東日本大震災で被害に遭った地域での芸術祭ということで注目度は高く、アート、音楽、食と幅広いジャンルの人々が「リボーン(再生)」を旗印に、東北という土地と向き合った。彼らの展示場所となったのは、浪田浜という地元民にもあまり知られていない浜だ。

「リサーチに時間をかけられたので、それから何度も現地に通いました。浪田浜はすごくいい場所だったんですが、既存の作品を持ってきても浮いてしまう。なにもなくなってしまった場所で“つくる”というのはどういうことかを考えました」と青木さん。

「京都で制作をしている時は、布屋や画材屋で素材を調達してきて作品をつくるのですが、この場所では何もない。でも、土を掘ってみたら粘土が出て、それを練ったら造形ができる。その場にある素材で制作をしてみようと」と伊藤さん。

 2017年に浪田浜で発表した《浜と手と脳》という作品では、粘土を用いた絵、そこから発展してかまど自体をキャンバスにした煙の出る絵や木の皮を剥いで紐を作ってドローイングの材料にした作品を制作したほか、普段彼らが制作している映像や刺繍の作品を持ち込んだ。鑑賞者は展示場所まで険しい森を歩くところから始まり、自然との距離感や関係性が考えさせられる展示となった。

2017年のリボーンアート・フェスティバル、石巻の浪田浜で展示された《浜と手と脳》(写真・後藤秀二)。

 2019年の芸術祭のための準備を始めたのは、前年の10月頃。青木さんが再度リサーチのために石巻を訪れ、次の展示場所となる網地島を巡った。この島は「東北のハワイ」と呼ばれている温暖な島で、夏は海水浴客で賑わうが近年は人口が減り空き家が目立っていた。展示候補場所の空き家を巡るうちに、展示のアイデアが湧いてきた。伊藤さんは語る。

「空き家には家財道具なども置きっぱなしで、尋常じゃない量の物がそのままの状態になっていて。それを見て、その物を使ってお店を開いたらどうだろうと思いました。あと、浪田浜とは違い網地島には人々の暮らしがあるので、漁師さんから漁網の編み方や補修の仕方を教わり、次の展示では彼らの知恵や技術を生かしたいと思いました。かつて使われていた家財道具に何か手仕事を施してお店で売るようにしようと」。青木さんは加えて「地元の漁師さんたちはとても手先が器用で、網だけではなく遠洋漁業の船の中でセーターや靴下などの編み物をしたり、ボトルシップを作ったりして持って帰ってきたそう。日頃から繕いものは男の人の仕事で、ごみ収集場のネットも漁師さんが補修していたと聞きました」。

 2019年は元駄菓子屋を利用して《メタモルフォーセス》という店を開き、その近くにあった畑を展示場所としてチョイス。店では、家財道具に加え空き家から大量に発見されたボトルシップや、地元のお母さんたちが手を加えたエコバッグ、ほかにも様々な場所や職業の人に依頼し、商品を販売。店の設えにも、地元の人たちが日常的に行っているDIY的な“つくる”手法を採り入れた。畑では、漁師さんたちから教わり制作した網の作品などを展示。期間中は島外だけでなく、島の人たちも多く訪れたという。

2019年の同芸術祭、石巻の網地島で制作したお店《メタモルフォーセス》(Photo by Shiho Ukaji)。共に共作。

 本展ではこの2回の活動を、数本のアニメーション作品がつなぐ形となる。

「子供を観察していると、人が生まれて成長をする過程と、ものをつくる時に感じることがすごくリンクする部分があって。数学者の岡潔さんが説く教育論にも共鳴しながらこつこつつくり続けてきました。リボーンで改めて考えた“つくる”行為と合わせて見ることで、“つくる”ことと“人間の成長”とのつながりを再確認したいんです」と伊藤さん。

 会期中は関連トークや商品販売、ワークショップなどを予定。日々の生活の中で“つくる”こととは何か、考えたい。

『青木陵子+伊藤存「変化する自由分子のWORKSHOP」展』

〜6月14日、ワタリウム美術館(東京都渋谷区神宮前3−7−6)で開催中。11時〜19時。月曜休。2017年と19年に開催されたリボーンアート・フェスティバルの作品で得た、自然との対話、人の手により編み出される知恵などの経験をもとに、「人がつくる」ことの可能性をワークショップ的に展開する。会期中、数回のワークショップ、イベントを開催。


※4月の特別開館(予約制)のお知らせ 
開館日:火・水・木・金曜日
開館時間:11:00-19:00
予約方法:お電話 03-3402-3001
予約受付:開館日の11:00-19:00( ご希望の入館時間の1時間前まで受付しております)
期間:4月30日(木)までを予定 (休館日:土・日・月曜日)

詳細はWebにて。
http://www.watarium.co.jp/




イベントなどは延期、中止となっている可能性があります。詳細は主催者のウェブサイトなどでご確認ください。

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伊藤 存

いとう・ぞん/1971年大阪府生まれ、京都在住。刺繍の作品をはじめ、アニメーション、ドローイング、彫刻作品を制作。青木陵子との共同制作多数。

青木陵子

あおき・りょうこ/1973年兵庫県生まれ、京都在住。動植物や日常の断片、幾何学模様などをイメージの連鎖で描き、素描を組み合わせた作品を発表。

photo/
Manami Takahashi
text/
Keiko Kamijo

本記事は雑誌BRUTUS914号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は914号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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