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茅ヶ崎出身のCMディレクターが、一関市の伝統文化に魅せられた理由とは? |小松真弓 × 小池一子

BRUTUSCOPE

No. 914(2020.04.15発行)
いつか旅に出る日。
小松真弓(左) 小池一子(右)

地に足のついた文化が教えてくれること。

岩手県一関市本寺地区の消えゆく文化を映像に残そうと、土地に住む人々を起用し、劇映画『もち』を作った小松真弓監督。武蔵野美術大学時代の恩師で、クリエイティブ・ディレクターの小池一子さんとともに東北文化の魅力を語りました。

小松真弓
これまでに撮影で、様々な国に行きましたが、島国には独特の文化が色濃く残っているように感じました。特にアイルランドやアイスランドは、人と自然の距離がとても近いんです。
小池一子
そうね。大陸と違って閉鎖されているから余計に内側に向かうのかしら? アイルランドの演劇は、私も大好きですが、神話や民族色もあり、自然に突っ込んでいく印象がありますね(笑)。
小松
一関市もそうで、お餅にまつわる様々な行事や、「鹿踊」や「神楽・鶏舞」が残っており、それらにはちゃんと意味がある。小さな社会で人と人がつながり、生きていくための知恵が、小さな暗号としてちりばめられているんです。本寺地区の「鶏舞」は中学校の生徒たちが復活させました。「踊りは人々を守っている。その踊りを忘れていいのか。踊らなくなって人は守られるのか」という卒業生の残した言葉に衝撃を受けました。
小池
いま、世界は新型コロナウイルスで大変なことになっているけれど、このハードな状況下で『もち』を観ると、土に根づいた生活の尊さを深く感じますね。お餅やお米、食べるものはやはり大事。
小松
私の父は、会社を辞めて茅ヶ崎で有機野菜を作っているんです。東日本大震災の直後、食料が出回らなくなったころ、私は初めて父の畑に入って、土が人に与える安心感を実感しました。あの経験があったから、この映画を撮れたような気がします。
小池
撮影した広川泰士さんは、原発や災害エリアを題材に写真を撮ってきた人。日本の構造的な問題の上に現代の生活があるという視線を持っておられます。『もち』は光や風、人々の自然な表情がものすごくうまく捉えられていましたね。
小松
ありがとうございます。本寺地区の人々のそのままの姿を残したかったので、いかに演出をしないかというのが課題でした。自分の思うような流れにならなくても口出しはせず、撮れたものから、その夜、脚本を書き直しては調整する日々でした(笑)。
小池
そもそも、なぜこれを撮ろうと思ったの?
小松
たまたま取材を通して、本寺地区の伝統行事の意味を知ってしまい、これは残しておかないと、きっと失われていってしまうものだろうと思ったんです。ただ、撮ると決めるには覚悟がいりました。でも、自分が死んだ後のことを考えたときに、映像が残っていれば、たとえその頃あの文化が失われていても、いつか誰かが掘り起こしてくれるかもしれない。そのためなら、自費をつぎ込んでも、2年近く自分の仕事を休んでも、やる意味があるんじゃないかと思ったんです。
小池
ミッションを感じたのね? 
小松
ダサいですよね(苦笑)。
小池
いいえ。アートでも音楽でも舞台でも、いい仕事はみな、そういう意識があるものだと思う。私はここ何年か、十和田市現代美術館の仕事で、東北に通ったけれど、奥入瀬のあたりの叙情的な自然に対して、八戸から北の三陸海岸は荒々しい。その光景は縄文時代からほとんど変わっていないらしいの。海岸で、切り立った岩を見ながら、立っていられないほどの強風を受けたとき、これを縄文時代の人たちも見ていたのかと想像したら、なんともいえない気分になりました。
小松
普段都会にいるから、その土地のすごさに気づけるということはありますよね。
小池
2018年に開かれた展覧会『縄文ーー1万年の美の鼓動』では、十和田で出土した、私の一番好きな壺も展示されていました。無名の出土品だったから、大勢の人に見てもらえたのは嬉しかった(笑)。壺に描かれていた渦巻きは、春先に芽を出すゼンマイが図案のもとなんじゃないかと、地元の人と山を歩いたときに思いました。その地にいると自然を見る目も鍛えられます。鶏舞の衣装の文様も、そこに暮らしていれば、自然と受け止められるものなのでしょうね。
小松
東北に限らず、どの地方でも、便利な生活が進んで、伝統的な行事は面倒と開かれなくなって。その流れは誰にも止められないと思うんです。でも、昨今の縄文ブームで、土偶に興味を持つ人が増えたように、地方の伝統も、知ってもらうということに意味がある気がしています。
小池
そうね。自らテーマを持って、心を動かされるままにものを作れば、きっと同じ思いを抱く人に自然と届いていくものだと私は思います。

『もち』

脚本・監督:小松真弓/出演:佐藤由奈、蓬田稔ほか/800年前の景観を残す岩手県一関市本寺地区。おじいちゃん(蓬田稔)は妻の葬儀の日、雪の中、餅をつきたいと言い張る。ユナ(佐藤由奈)の通う中学は合併が決まった。ユナの一年を追い、一関の伝統文化を収めた、限りなくノンフィクションに近い劇映画。4月18日、渋谷・ユーロスペースで公開。


※映画は公開延期となっています。詳細は公式HPでご確認ください。
http://mochi-movie.com/

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小松真弓

こまつ・まゆみ/映像ディレクター。テレビCMの企画・演出を中心に幅広く活躍。主な作品に蒼井優主演映画『たまたま』(2011年)、小沢健二「彗星」MVなど。

小池一子

こいけ・かずこ/クリエイティブ・ディレクター。十和田市現代美術館館長退任後もTAPS(十和田市現代美術館パートナーズ)特別顧問として活動に携わる。

photo/
Ayumi Yamamoto
text/
Tomoko Kurose

本記事は雑誌BRUTUS914号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は914号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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