エンターテインメント

脚本家・渡辺あやが描く、「壁」の中と外。

BRUTUSCOPE

No. 914(2020.04.15発行)
いつか旅に出る日。

 朝ドラの名作『カーネーション』や映画『ジョゼと虎と魚たち』などの脚本で知られる渡辺あや。昨年末に放映された『ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜』は「4K/8K」のスケールの大きな作品だったが、一方で渡辺はここ数年、NHK京都制作のローカルな作品にも携わってきた。

「昨年『センス・オブ・ワンダー』というドキュメンタリーを作ったときにも考えたことなんですが、自分が京都という場所が特別だなと思っている理由は、経済的な価値とか合理性とかではないものに価値を見出して、それが本当に大切なものなんだと信じている大人の人たちが、それぞれの人生を懸けてその道を歩んでいらっしゃる、そうした哲学を持って街を守っていらっしゃるということにあると思うんです」

 しかし、その京都でさえも、そうした「哲学」が失われてきていることを渡辺は危惧する。そこから生まれたのが、歴史ある大学の自治寮をめぐって、存続を主張する寮生たちと、廃寮に追い込もうとする大学側との対立を描いた、2018年制作の『ワンダーウォール』というドラマだった。

「京都においてさえも、こういう社会に大事だと思われるような場所が、経済的な事情なんかでどんどん消えてしまっている。それをなるべく多くの人たちに伝えて、本当にそれでいいのかという問題意識を共有したいという動機が最初にありました」

 タイトルにもなっている「壁」は比喩的な意味もあるが、渡辺が取材中に耳にした、ある大学の事務室に、ある日突然、学生を隔てるような大きなついたてが立ったという話から来ている。

「壁を一つ立てることによって、対話の大切さそのものを否定してしまっているんです。しかも、権力側である大学が、象徴的な態度として学生にそう示したということですよね。それは、大人の質が下がったということではないかと。また、そうした劣化は、今あらゆるところで起こっているように思うんです」

 そのドラマが、この春劇場版になってスクリーンに戻ってくる。渡辺のドラマが劇場版になったのは、『火の魚』『その街のこども』に続いてこれが3度目だ。

 最後に渡辺に次回作の構想を尋ねると、「今度は“壁”の向こう側を描きたいと思っているんです」という答えが返ってきた。久しぶりの連ドラ、それもコメディになるという。今から楽しみだ。

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『ワンダーウォール 劇場版』

※イベントなどは延期、中止となっている可能性があります。詳細は主催者のウェブサイトなどでご確認ください。

監督:前田悠希/脚本:渡辺あや/出演:須藤蓮、岡山天音、成海璃子ほか/2018年にNHK京都で制作され、放映後全国的に話題になった同名ドラマに未公開シーンなどを足した劇場版。新宿シネマカリテほかで全国順次公開中。

わたなべ・あや

脚本家。2003年に『ジョゼと虎と魚たち』でデビュー後、『天然コケッコー』などの映画や、『カーネーション』『その街のこども』などのドラマで活躍してきた。最新作に『ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜』がある。

photo/
Masanori Kaneshita
text/
Mikado Koyanagi

本記事は雑誌BRUTUS914号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は914号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.914
いつか旅に出る日。(2020.04.15発行)

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