エンターテインメント

本作りに向けて動きだすと、企画は変わっていく。|吉田宏子〈888ブックス〉

本を作る人。

No. 913(2020.04.01発行)
犬がいてよかった。

888ブックス 吉田宏子(最終回/全3回)

どんな本を、誰と作るか。企画の立ち上げからデザイナーや印刷所選び、書店とのやりとりまで一人で進める“ひとり出版社”。変化さえも柔軟に楽しみながらアートブック作りは進む。

新しく出た絵本『あの人が歌うのをきいたことがない』についてもう少し教えてください。
吉田宏子
イラストレーターの福田利之さんから〈KIRINJI〉堀込高樹さんと一緒に本を作りたいとお名前があがって、ダメ元で堀込さんにお願いしました。そうしたら文章だけでなく曲まで書き下ろしてくださって、なんとも贅沢な一冊になりました。
企画が進むうちに変化していくこともあるんですね。
吉田
同時期に作っていた『手塚治虫アーリーワークス』もそうですね。初期の新聞漫画をまとめた『マアチャンの日記帳』として出す予定が、長編『ロマンス島』との2冊組に変わりました。『ロマンス島』は、手塚さんの日記によれば、初単行本『新寶島』の前、1946年の夏に描かれた作品。全編に薄墨が使われていてすごく綺麗なんです。でもそれゆえに、当時の技術では印刷が困難で刊行されずにいた。もし刊行されていたら、版下職人が原稿をなぞる“描き版”で製版されていたかもしれないし、生の原稿は残っていなかったかもしれない。世に出ていなかったからこそ今回形にすることができたという、不思議な巡り合わせの作品です。原画の美しさを最大限に引き出したくて、祖父江慎さんにブックデザインをお願いして、造本も凝ったものになりました。
会社外でも本を作られているとか?
吉田
スヌーピーミュージアムやバスキア展の図録の編集、原田治展の図録の執筆など、依頼をいただいて作る本も、やっぱり絵を描く作家さんに関連したものが多いですね。(了)
制作途中の『手塚治虫アーリーワークス』から。

『あの人が歌うのをきいたことがない』。

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よしだ・ひろこ

1967年生まれ。玄光社、ハモニカブックスを経て2015年に〈888ブックス〉〈パールブックショップ&ギャラリー〉を立ち上げ、本作りと展覧会のキュレーションを続ける。

写真/
角戸菜摘
文/
鳥澤 光

本記事は雑誌BRUTUS913号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は913号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.913
犬がいてよかった。(2020.04.01発行)

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