エンターテインメント

堀内誠一さんのタイトル・デザイン。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 913(2020.04.01発行)
犬がいてよかった。

 大衆娯楽誌のタイトル・デザインにあって、衝撃だったのは、ファッション誌・ananの登場だった。こちらがまだ大学在学中のときのことである。寮のあった上石神井から駅にむかう道の途中の若夫婦経営のちいさな書店の店先で、みたことのないサイズの表紙に洋雑誌かな、と思ったほどだ。

 手に取るとレイアウトもきわめて大胆。モデルもいわゆる美形ではなく、癖のある崩し系。しかし、衝撃の最大のものはなんといっても、蛇のようにうねるananの文字デザインであった。アート・ディレクターとして創刊にかかわられたのが堀内誠一氏。

 数年後、平凡出版(現マガジンハウス)の募集広告をみて応募したのはananの発行元ということで、堀内さんとお会いできるかなと思ったからである。応募の際の原稿テーマが〈わが半生〉であった。おそらく、最終段階の読み手は戦争体験がある年齢層にちがいない、と自己流にマーケティングをして、満州引き揚げの父親と自分の関係、小学入学まで牛と南天が営みのすべてだった話を一種の〈泣き〉として(1200字)、推敲を重ねた。当時、住んでいた東高円寺の喫茶店で清書していたとき、ふと目をあげるとかわいいウエイトレスさんが床掃除を一心にしていて、ミニスカからフリル付きの白いパンティが無防備にこちらに微笑みかけていた。この瞬間、合格を確信したものである。

 1973年の入社直前に書店に並んだリトル・マガジンの表紙デザインが堀内誠一氏であった。〈我国最初の幻想怪奇文学研究誌〉と裏表紙に銘打たれた、三崎書房刊行の隔月刊『幻想と怪奇』である。アルファベット・タイトルとしては、ROMAN FANTASTIQUE、漢字とひらがなとして、幻想と怪奇の2種のタイトル・デザイン。特に後者がH・P・ラブクラフトの怪物が漢字を擬態したかのようで不気味で美しい。編集代表が紀田順一郎・荒俣宏氏で、このとき荒俣氏は弱冠25歳だから畏れ入る。ちなみに、筆者が橘外男という存在を知ったのもこの創刊号で、蒲団にまつわるえげつない怪異談であった。2号から別の出版社に版元が代わり、堀内デザインはこの1冊のみ。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS913号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は913号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.913
犬がいてよかった。(2020.04.01発行)

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