弦楽器奏者の高田漣と振り返る、レコーディングと“3”の不思議。
ceroのフロントマン、髙城晶平によるソロプロジェクト〈Shohei Takagi Parallela Botanica〉のアルバム『Triptych』が完成した。この作品に収録されている「キリエ」に参加しているのが、弦楽器奏者の高田漣。2人とも西東京地域の出身で、同じ学校の先輩後輩にあたる間柄。もしかしたら地元ネタで盛り上がるかと思いきや、実にミュージックファーストな話になった。まずは、このソロプロジェクトの名前の由来から聞いた。
- 髙城晶平
- 子供の頃から、架空の動物や植物の生態が載っている図鑑『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑・植物図鑑』が大好きでした。うちの子供にも読み聞かせていたら、気に入った様子で。読み直しているうち、ソロ作はその中の植物から名前を取ろうと思ったんですが、総称的な言葉の方がいいと、そこで「平行植物(ボタニカ・パラレラ)」という言葉に辿り着いたわけです。語源はレオ・レオニの著書みたいですね。
- 高田漣
- 今回参加させてもらった「キリエ」は、小説の中に出てくる賛美歌からタイトルを取ったって言っていたね。
- 髙城
- それくらいしか、事前に説明できず、すいませんでした……(苦笑)。このアルバムタイトル、“トリプティック(三連祭壇画)”が示す通り、3曲で1つのフレームを形成し、それが全9曲の3部構成になる作りになっています。ceroの音楽が物語的なのに対して、ソロのテーマは色彩と3つの絵。同じ対象を、同じ絵の具で違った角度から描く感覚です。それを30分強の中に、色の陶酔を伴って落とし込む。ある意味、サイケデリックな作り方というか。でも、極彩色ではなく、あくまでも水墨画のサイケデリック。「キリエ」は、2フレーム目の冒頭の曲になります。
- 高田
- すごく複雑にできている曲だよね。
- 髙城
- 僕自身は気ままにデモを作ったんだけど、プレーヤーの皆さんには、だいぶご迷惑をおかけしたみたいで……。
- 高田
- パートごとに拍子が違い、3拍子と4拍子の演奏者が混在しながら演奏する複雑な曲。みんなで演奏している時、秋田ゴールドマンのベースに釣られると、こっちの演奏が破綻する。
- 髙城
- みんな感じている拍子が違うから、フィール(リズムのニュアンス)も微妙に違っていて面白かったです。
- 高田
- でも、髙城くんの歌が入り、出来上がった曲を聴くと、ちゃんとポップな曲になっていて驚いた。リズムだけを録っている時は、正直どんな曲に仕上がるのか、想像がつかなかった。
- 髙城
- 僕も「みんなよく演奏できるな」と思っていましたよ(笑)。
- 高田
- 昨年末、細野晴臣さんのライブに参加していて、細野さんが劇伴を手がけた映画『メゾン・ド・ヒミコ』の曲を演奏して。その曲も3拍子と4拍子が混在していて、リズムが絡んでいく。面白いと思っていた矢先、髙城くんの曲が届いて。不思議なご縁だと思ったね。
- 髙城
- 流行っているのかな(笑)。
- 高田
- 細野さんはライブのMCで「3という数字は大事な数字。3の倍数がすべてを作っていると思う」と話されていて。
- 髙城
- やはり3ですか。cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)はポリリズムや、交差するリズムがテーマだったんです。その時も、“3”という数字が重要なキーワードになっていましたね。
- 高田
- 感覚的な話で、譜面だけで解釈できる話じゃないよね。今はメールでデモや譜面のやりとりができて、レコーディング前にメンバーと会わないこともあるけど、髙城くんの場合は録る前にスタジオへ入り確認することが必要だったんだ。
- 髙城
- 実は「キリエ」って、別の曲をレコーディングしながら、最後に書いた曲。他の曲と違って、一度もバンドで音を出したことのない曲だったので、お集まりいただいたんです。
- 高田
- 委ねてくれた部分もあるんだ?
- 髙城
- そうですね。僕の仕事は演奏家というより、全体のコンセプトやサウンドデザインみたいな部分のウエイトが大きいと思ったので、皆さんの演奏を客観的に把握する必要があったんです。
- 高田
- なるほど。アルバム全体の話にもなるけど、髙城くんの音楽はなにかっぽくないんだよ。ルーツレスではないけど、出来上がる音楽は「平行植物」のように、すごく空想的というか。国や場所、時間など、いつどこで生まれたのかわからない音楽。今回参加して、作り方がわかり、結構衝撃的だった。少なくとも自分では、こういうパーツの組み合わせ方とかを考えたことがなかったから。
- 髙城
- アイデアが先行する分、後のライブの時に苦労するという(苦笑)。その時は、また相談に乗ってください。
- photo/
- Ayumi Yamamoto
- text/
- Katsumi Watanabe
本記事は雑誌BRUTUS913号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は913号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。