エンターテインメント

寺山修司×和田誠の 『血と麦』。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 911(2020.03.02発行)
大阪の正解

 中学時代買った本で、今も手元にあるのはわずかだ。その一冊は、数年前、本誌「危険な読書」特集で紹介した江戸川乱歩の『犯罪図鑑』だった。次に愛着が深いのが、寺山修司の歌集『血と麦』となる。購入のきっかけは、中学の教師の机の上にあった短歌雑誌を見ていて、広告ページでみつけたものである。ただただ『血と麦』という表題の不穏が田舎の中学生の胸を刺し、中身はわからなかったが賭けにでた。
 当時、函入り単行本は定価300円程度だったが、広告には定価700円とあった。白玉書房という聞いたこともない出版社の刊行。歌集とか基本的に限定本の世界ゆえに、高額とならざるをえない、ということを教師にそのとき教わったわけだが、高額本ゆえに、父親の泣き落としに時間がかかったものである。牛と南天以外に収入の道のない我が家の貧困経済にダメージはおおきかったようだが、わがままを通した。
 田舎の中学で近くに書店はない。どうすればいい? 教師に訊くと、月一で遠くの町、福知山から福島文進堂という書店が注文とりにやってくる、自分たちも取り寄せはお願いしているとのこと。この書店を通じて、筑摩書房新鋭文学叢書の大江健三郎、石原慎太郎を手にすることができた。
 さて『血と麦』には、寺山短歌でもっとも有名といっていい、次の一首が収められている。

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

 ハードボイルドの気配もあり、自分にとって、この短歌を口にしたとき、あざやかな映像としていつも浮かぶのが、日活のスター、赤木圭一郎の『霧笛が俺を呼んでいる』だった。赤木が歌った主題歌とリンクしたハードな哀愁。デビューしたての吉永小百合の可憐さがたまらない。赤木のゴーカートの衝突死は小学6年生の時だったが、ライジング・スターの唐突な死はとてつもない衝撃だった。
『血と麦』の刊行年は昭和37(1962)年であり、奥付には「デザイン 和田誠」とある。昨年暮れに亡くなられた和田氏の本当に初期のデザインにちがいない。段ボールの函の表面はエンボス加工で活字がシンプルに並んでいて、単純明快。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS911号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は911号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.911
大阪の正解(2020.03.02発行)

関連記事