アート

【3月11日開催】しりあがり寿が描く、ちょっと可笑しな葛飾北斎。

BRUTUSCOPE

No. 911(2020.03.02発行)
大阪の正解

日本のアートの古典×現代を眺める大展覧会で、「冨嶽三十六景」のパロディ!?

 3月11日から国立新美術館でスタートする『古典×現代2020─時空を超える日本のアート』展。江戸時代以前の美術と8人の現代作家の作品を対にして、日本美術の魅力を新たな視点から見つめてみようという試みだ。葛飾北斎の「冨嶽三十六景」に着想を得たパロディ作品として「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」シリーズを制作した、ゆる〜くシュールな作風でお馴染みの漫画家、しりあがり寿さんに話を聞いた。

北斎が描いた富士山の浮世絵といえば、飲食店の装飾になっていたり、何かのポスターに引用されていたりと、今やそこらじゅうに溢れているイメージだろう。
しりあがり寿
そう、普通すぎてそんなに特別なものだとは思ってなくて。だから、北斎のかの有名な波を描いた絵にしても”波ってこういうものだよね”という感じで、別段驚きはありませんよね。でも世界中の人が、波といえば北斎の絵を思い浮かべる。やっぱり北斎ってすごい人だな、と
しりあがりさんにとって、江戸時代に登場した浮世絵、そして北斎の魅力はどんなところにあるのだろうか。
寿
芸術にしても北斎という人物をとってみても、エネルギーに満ちた時代だったんじゃないかなぁ。同じ頃のヨーロッパを見てみると、フランス革命の後で市民的な文化がドッと溢れてくる。漫画もニュースメディアの誕生に合わせ政治的な風刺画が出てくる。それが日本の場合はお上が睨んでいるからもっとエンターテインメントに特化していて、とにかく楽しくて面白いというストレートなエネルギーを感じるんです。浮世絵の風景画にしても役者絵にしても、意味より、カッコイイ とかイキ とかシャレてる というね。……北斎の絵って、なんていうのかな、輪郭線を描く線画のほぼ到達点という感じがするんだよね。現代の漫画に通じている部分があるようにも思います。
確かに、北斎が森羅万象を面白おかしく描いた「北斎漫画」など、まさに先駆的な漫画作品である。北斎は漫画家として、しりあがりさんの大先輩ともいえそうだ。
さて、今回の展覧会では、しりあがりさんの妙味ともいえるパロディ作品がズラリと並ぶ。一見、「北斎の絵だけど……あれっ? なんか違うな」という感じなのだが、どの絵もよく見ると、くすりと笑える仕掛け(というか、イタズラ?)がある。
寿
「北斎の絵って色や形にすごく特徴がありますよね。物語としての要素ももちろんあるけど、それ以上に造形のインパクトが強い。そこで、その造形を生かしながら、北斎らしさを失わず別のものに作り替えるというパロディをやりました。造形をいかに”見立てる”かがポイントかな」
富士山をカミソリで剃るという奇想天外なアイデアで画面のスケール感を狂わせたり、桶がメビウスの輪になってしまったりと、様々な手法で見る人を飽きさせない。
寿
「急所に一発お見舞いしてやった という感じで、いやぁ、作るのは楽しかった。最初は、数点作ろうかなと思っていただけなんだけど、結局46点すべての『冨嶽三十六景』のパロディができちゃいました(笑)」
ヒット作の『真夜中の弥次さん喜多さん』をはじめ、これまでもパロディ作品を数多く世に送り出してきたしりあがりさんだが、改めてパロディの面白さについて聞くと「実はよくわからないんだよね」と、ちょっとはぐらかしながらも答えてくれた。
寿
「僕が高校〜大学生の頃に、ちょうど世間ではパロディが大流行りしてたんですよね。もうモンティ・パイソンなんか大好きで。でもあの頃の僕は、何をやっても既にやられてしまっている気がしていて、自分が作ったものをまるでオリジナルかのように振る舞うのが恥ずかしくて。一方で、どうせパロディしかできないけど、そのことがわかってるだけカッコイイでしょ? みたいな自意識がある(笑)。オリジナルや個性というものを斜めに見てましたねぇ。だから、毎回違う雰囲気の絵で描いたとしても”これはあの作家の作品だ”と見る人がわかったら、それが本物なんだって思ってました。深いところでアイデンティティが通じたって感じがするからね。自分を隠すというか、”オマエはこういうもんだろう”って決められることから逃げたかったのかもしれないけど。そんな時に一つの手法としてパロディがあったんじゃないかな」
う〜ん、葛飾北斎×しりあがり寿の世界がどのように見せてくれるか、展覧会が楽しみだ。

葛飾北斎×しりあがり寿が描く、比べて楽しい「冨嶽三十六景」千変万化!

1 / 葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》江戸時代19世紀、大判錦絵、25.2×38.5㎝、和泉市久保惣記念美術館。
2 / しりあがり寿《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 太陽から見た地球》2017年、和紙にインクジェットプリント、32.0×47.0㎝、作家蔵。展示期間はいずれも5月8日〜6月1日。

1 / 葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》江戸時代19世紀、大判錦絵、25.9×38.1㎝、和泉市久保惣記念美術館。
2 / しりあがり寿《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 髭剃り富士》2017年、和紙にインクジェットプリント、32.0×47.0㎝、作家蔵。展示期間はいずれも3月11日〜4月6日。

1 / 葛飾北斎《冨嶽三十六景 尾州不二見原》江戸時代19世紀、大判錦絵、24.6×37.1㎝、和泉市久保惣記念美術館。
2 / しりあがり寿《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 メビウスの桶》2017年、和紙にインクジェットプリント、32.0×47.0㎝、作家蔵。展示期間はいずれも4月8日〜5月7日。

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しりあがり寿

しりあがり・ことぶき/1958年生まれ。85年『エレキな春』で漫画家としてデビュー。ギャグから社会派まで幅広いジャンルの漫画作品を手がける一方、映像、現代アートなど多方面で活躍中。2014年、紫綬褒章受章。

『古典×現代2020─時空を超える日本のアート』

3月11日〜6月1日、国立新美術館(東京都港区六本木7−22−2☎03・5777・8600*ハローダイヤル)で開催。10時〜18時(金・土〜20時、5月30日〜22時)。火曜休(5月5日開館、5月7日休)。
出品作家に横尾忠則や皆川明など。

photo/
Hiromi Kurokawa
text/
Shiho Nakamura

本記事は雑誌BRUTUS911号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は911号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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