エンターテインメント

宇佐見りん『かか』のうーちゃん

星野概念「登場人物を精神医学で診る本の診断室」

No. 910(2020.02.15発行)
キッチン

主治医:星野概念

症状:かかを後戻りできんくさしたのは、ととでも、いるかどうかも知らんととより前の男たちでもなくて、ほんとうは自分なのだ。
備考:離婚を機に心を病み、酒を飲んでは暴れる母親・かかと、大好きなかかに悩む19歳のうーちゃん。壊れた母への痛切な愛と、自立の物語。河出書房新社/1,300円。

壊れてしまった母と、母を愛する娘。家族という複雑な内面。

 子供にとって、親、特に母親は唯一で絶対の信頼できる存在です。何かを訴えたくて泣けば、よしよしと抱いて助けてくれる。母親からしても子供は自分以上に大切で、2人の間には特別な情緒的結びつきがある。これは子供が安心して育つことができる形です。しかし、本作の語り部うーちゃんの母親・かかは、自分の姉ばかりが母親の愛を受けて育ったと考えたり、夫に裏切られた自分のことを悲しむばかり。酒を飲んで大声を出し自傷するなど、感情的にとても不安定です。うーちゃんと弟・みっくんの面倒をみる前に、自分のことで悲しくなってしまい、まだ子供のままという印象です。このように、親が親として機能しないと、子供が親のことを気遣って早くから甘えずに冷静さを保とうとして大人びます。これは「アダルトチルドレン」と呼ばれる形で、うーちゃんもそうです。我慢してばかりになるので歪みは生じ、自分がいたから、かかは父と結婚して裏切られた、と過度に自己否定的な捉え方をして苦しみます。それでも、SNSの鍵アカの場を居場所とするなど、なんとかやり過ごしていますが、19歳で一人称がうーちゃんなのは、隠された幼さを感じます。独特で新鮮な文体で、難しい境遇を必死で生きるうーちゃんの複雑な内面がヒリヒリと言語化されています。親子関係というものは一筋縄ではいかない。それを根底から考えさせられました。

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ほしの・がいねん

精神科医。音楽活動もさまざまに行う。いとうせいこうとの共著『ラブという薬』が話題。

編集/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS910号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は910号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.910
キッチン(2020.02.15発行)

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