エンターテインメント

アート・ミステリー、 極上の外道はこの一冊。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 909(2020.02.01発行)
もっと おいしいコーヒーの教科書

 自分の生まれた1年後の1950年、終戦直後の混乱と高揚のなかで刊行されていた橘外男の『青白き裸女群像』(京橋の名曲堂の刊行、定価百五十圓)を、散歩ついでに立ち寄った古本屋でようやく手に入れることができた。フランスの人里離れた城塞地下に、美青年の甘言によって拉致された金髪の美少女たちが、腐乱する異様な肉体の画家に裸体モデルを強要され、最後には……、いかにも外男の名に恥じぬ外道なお話である。その外道がきわまるのは、注射器によって……、この描写がおぞましい。

 ちなみにこの作品がある小説のオリジナルと知ったのは数年前だ。『ミステリ珍本全集』(戎光祥出版)の第6回配本が、日下三蔵・編の橘外男集『私は呪われている』で、そこに収録されていた長編『双面の舞姫』に一驚して以来である。なぜ一驚したかというと、おぞましくもマニアックな少女誘拐譚が、月刊誌『少女の友』に1953年の1月号から12月号にかけて連載され、児童書として単行本で出版されていた事実である。少女誘拐、性的調教以上の描写にあふれたエロ・グロ作品が少女向け雑誌に堂々と掲載され、しかも児童書として刊行されていた事実。

 終戦直後のカオスのなかで、1946年にシリアル・キラー小平義雄、幼女誘拐の樋口芳男の事件の記憶が鮮明ななかでの、外道な外男の猟奇へのいざない。

 さらに外男に関して一驚したのは、『双面の舞姫』が自作『青白き裸女群像』をそのまま舞台を日本にしてのリメイク小説だったということ。一粒で二度おいしいというみごとなビジネス・モデル例が『双面の舞姫』
だったのである。オリジナルを手にしてみたい、読んでみたいとなって、古書店めぐりをしていてついに手にしたのが名曲堂版だったのである。奇妙なのは、ざら紙の書に、上質紙に印刷されたみごとな裸体群舞画が一葉挟み込まれて糊付けされていて、そこにはTUKA
SA1969とサインされていたことである。この書を所有されていた方は、本当に橘外男ファンで、丁寧な糊付けで、まさに自分の一冊を誇らしく製本したと思うしかない。TUKASAとはだれか? 司修氏か? 本の来歴そのものがエロいような。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS909号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は909号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.909
もっと おいしいコーヒーの教科書(2020.02.01発行)

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