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演歌を紐解くと、それは生活の歌ですよ。|北島三郎(最終回/全五回)

TOKYO 80s

No. 909(2020.02.01発行)
もっと おいしいコーヒーの教科書

「さぶ、頑張ってね」。紅白歌合戦で初めて白組のトリを歌うのに舞台袖で待機していると、美空ひばりさんから声をかけられました。歌ったのは「冬の宿」。映像が残っていますが、堂々と歌ってますよ(笑)。「よし、決まった」と引っ込んで、最後に大トリでひばりさんが登場しました。「俺は何を歌ってきたんだろう」と思いましたよ。たくさんの歌手が順番に歌ったけれど、俺の心に残ったのはひばりさんの声だけ。たった一曲で全部がぶっ飛んじゃった。ああ、本当のプロというのは、ぶっ飛ばすくらいの力を持ってないとダメなんだと身をもって教え込まれました。10年目までは夢中で歌っていました。20年目になると横着を覚え、これじゃいけねえって乗り越えて、30年すると自然体で舞台に立てるようになった。それでも芸に完成はないですよ。紅白も50回出させていただいた。一年間ありがとう、来年も頑張ろうぜと、夢や希望を届けられるように歌ってきました。ただね、いつまでも壁になっちゃいけない。新しい音楽、新しい子たちが入ってこられるように、自分の幕をいっぺん引こうと。生意気だけど50回で紅白には一本の線を引かせてもらいました。劇場公演もやっているうちに4578回、46年も経っていました。ここまでやらせてもらえたファンに感謝し、丈夫な体に産んでくれた親に感謝です。そして遠い空から見守ってくれてるご先祖様、神様、先輩たちにもね。アメリカにはジャズやロックがある。フランスにはシャンソン。日本は? といったら俺は演歌だと思うんです。演歌を紐解くと、生活の歌ですよ。海で働く人には海の歌、山で働く人には山の歌がある。ネオン街には艶っぽい歌。それが演歌ですよ。今の若い連中は生まれた時から色々な音楽を聴き、映像を観て育ってるから、動きも音感もいい。カラオケがあるから歌もうまい。けれど音楽が変わっても演歌がなくなるわけじゃない。流れとともに慌てずに、時代に遅れないように若い連中に負けないように後ろからくっついていこうじゃねえか、というのが私の考えかな。人生を振り返ると、得な人生と言ったらいいかな。波瀾万丈、山あり谷あり、でこぼこ道あり。人が通ったキレイな道には何も落ちてない、大変な場所にこそ学ぶことが多い。だから得なんですよ(笑)。そして、まだこうして歌うことができる、生かされていることに感謝です。(了)

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北島三郎

1936年生まれ。演歌歌手。NHK紅白歌合戦最多出場50回を誇る日本歌謡界のレジェンド

PHOTO/
SHINGO WAKAGI
TEXT/
KUNICHI NOMURA
EDIT/
HITOSHI MATSUO

本記事は雑誌BRUTUS909号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は909号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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もっと おいしいコーヒーの教科書(2020.02.01発行)

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