エンターテインメント

繊細に揺れ動く感情を豊かに描き出す、三宅純の映画音楽。

BRUTUSCOPE

No. 909(2020.02.01発行)
もっと おいしいコーヒーの教科書
三宅 純

音楽と映像が共鳴するとき。

『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの第4作目『インフェルノ』出版時に、アメリカの出版元が各国の翻訳者たちを秘密の地下室に隔離して翻訳作業を行った。そんな実話に基づくミステリー映画『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』が1月末から公開されている。レジス・ロワンサル監督によって仕掛けられた巧妙な謎、見事な伏線回収、幾重にも重なる時間軸の中で多くの物語が並行的に、疾走感をもって進んでいく。重層的な時間軸、登場人物の繊細な感情を解像度高く豊かに描き出す役割を担ったのが、音楽家・三宅純だ。

「脚本を読んで、“時間との戦い”を感じました。だから、伏線を感じさせる、背後からなにかをバックアップする、斜めから注意事項を示唆する……音楽が持ついろんな機能を意識しました」

 監督からは「エモーションを表現してほしい」と言われていた三宅。「音楽は一つの音を出すだけでハイブリッドな感情が伝わります。音楽はそれだけで独立した言語だから、聴いて伝わらないものは語っても意味がない。私は会話が得意ではないので感情を伝えるには音を使う方が早いんです」

 今回の仕事は、長きにわたるキャリアの中でも「トップレベルで難易度が高かった」と振り返る三宅。「音楽ができてから映像編集の方針変更が重なって。その都度、音楽も試行錯誤しました」。監督の意向に合わせて舵を切り直すその柔軟性で完成にこぎつけた一方で、「映画は監督のものとはいえ、いわゆる御用聞きのような作曲家にはなれないです。すべての音楽を作るうえで、音として単体で聴いた時に、自分が好きになれるかどうかは大きいです」と、制作への一貫した意志を覗かせる。

「映像とのコラボレーションは大変だけど好きです。画に音をつけたというよりは、映像と音が互角に戦える仕事をしたいですね」と三宅。第一線で活躍し続けるその視線の先についても口にした。

『9人の翻訳家 囚われた ベストセラー』

©(2019) TRÉSOR FILMS – FRANCE 2 CINÉMA - MARS FILMS- WILD BUNCH –LES PRODUCTIONS DU TRÉSOR-ARTÉMIS PRODUCTIONS

監督:レジス・ロワンサル/脚本:レジス・ロワンサルほか/音楽:三宅純/出演:ランベール・ウィルソン、オルガ・キュリレンコほか/ある小説を世界同時出版すべく隔離空間で各国の翻訳作業を開始するが、冒頭10ページが流出し……。公開中。映画のオリジナル・サウンドトラックは現在発売中。

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みやけ・じゅん

1958年生まれ。ヴィム・ヴェンダース監督の『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』をはじめ、ダンス作品や映画CMなど多くの音楽を手がける。

photo/
Mari Shimmraa(portrait)
text/
Aiko Iijima

本記事は雑誌BRUTUS909号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は909号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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