新鋭、ビー・ガン監督が見据える映画の未来。
今、世界中の映画人が熱視線を注ぐ、ビー・ガン監督をご存じだろうか。2015年『凱里ブルース』で長編デビューし、中華圏映画のアカデミー賞とされる「金馬奨」の最優秀新人監督賞を最年少で受賞。ギレルモ・デル・トロやジョナサン・デミらも推す、勢いのある新鋭監督だ。
ビー監督のキャリアは、本人いわく「たまたま進学した」映像関係の大学から始まった。
「多くの映画に触れ、直感的に、自分は“映画を撮るべき人”かもしれないと思いました。また、僕は人とコミュニケーションを取るのが苦手なので、自分で脚本を書いて、映像に起こしさえすれば映画が撮れると思い、向いていると確信したんです。一人で作れるなんて、とんでもない間違いでしたけど(笑)」
時にアンドレイ・タルコフスキーやウォン・カーウァイらを引き合いに出されるビー監督だが、先人からの影響も大きいのだろうか。
「先輩方が積み上げてきた映画史から創作の養分を得ていると思われがちですが、それよりも、夢を見ているときや友人と過ごすとき、取材を受けるとき、なにげない日常からインスパイアされることの方がはるかに多いです」
そんなビー監督の長編2作目『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』が今年、満を持して日本公開される。とある女の面影を追う一人の男を中心に、現実と記憶と夢が交錯する浮遊感のある映像が展開。注目すべきは、2Dの前半から一転、後半60分に3Dのワンシークエンスショットに切り替わるというおそらく史上初、前代未聞の構成だ。
「前半は、断片的な時間の積み重なりが感じられる構成になっているのに対し、後半は、時間の連続性を体感してもらうために3Dにしました。また、僕たちが記憶を回想するときも決して平面ではないように、記憶の質感をリアルに表現するうえで有効な手法でした」
本作でも多数の賞を獲得し、映画界を担う存在として注目されるビー監督だが、アートフィルムの前途は「厳しい」とあくまで冷静。
「すでに蓄積された文脈から狂信できる何かを見つけ、アウトプットするところに難しさがあると思います。新鮮さや独創性がなければいけないし、奇を衒えばいいわけではない。そのうえで、今の人々が共感できるものを作るのは、容易ではありません」
それでも、「描くものは不断に変わっていくと思いますが、映画に対する真心はいつまでも変わりません」とビー監督。新しい映画の姿を、これから次々と見せてくれるに違いない。
- photo/
- Katsumi Omori
- text/
- Emi Fukushima
本記事は雑誌BRUTUS909号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は909号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。