料理とコーヒー論。×細川亜衣

決闘コーヒー論。

No. 909(2020.02.01発行)
もっと おいしいコーヒーの教科書
今回の対談は2人の共通の友人である坂村岳志の店〈さかむら〉にて(熊本県熊本市中央区南千反畑町5−15)。細川亜衣さんがコーヒー・リゾットを作ったという会は、2019年11月2日に熊本の泰勝寺で開催されたイベント『花』だった。

大雑把さが大事だということに 気づかされたコーヒー・リゾット。

オオヤミノル 
亜衣さんが去年の秋に作ってくれたコーヒー・リゾット、素晴らしかったです。あのあと、持って帰った鶏の皮も。これね、ほんとに全国のコーヒー屋に食わしたい。熱ご飯とコーヒー風味のおかずを食べて旨いっていう経験って誰もしてないと思う。
細川亜衣
あれね(笑)。もともと4人(坂村岳志、鶴見昴、細川亜衣、オオヤミノル)で会をするってなったときに、別にコーヒーがテーマではなかったんですけど、なぜか私はすぐ、コーヒーを使った料理を作ろうってなんとなく思ったんですよね。普段、「茶と料理」というテーマで、中国台湾のお茶を使った料理会をいろいろな場所でやっているので、なにかそれに近い手法でコーヒーも料理の中の一つの素材になるんじゃないかなと思って。真っ先に浮かんだのがリゾットだった。中国料理で鶏油っていう、鶏の皮と油をずっと加熱して、そこから出た脂肪分をお料理のコク出しに使うっていう方法があって、あれを中国茶でやるんですけど、中国茶の代わりにコーヒー豆でやったらコーヒーの香りの鶏油ができて、しかもそこにはすでに鶏の旨味が入っているから、さらに肉や野菜のだし、いわゆるブイヨン的なものを入れると、コーヒーの味や香りが隠されてしまったり、出したいと思っていたのと違う方向になってしまう。それを避けたくて、コーヒー鶏油の鶏の旨味だけで、あとはお湯を足していくだけでリゾットになるんじゃないかと思って、ほんとにチーズもバターも足さずに、その油と米とお湯と塩だけでできる料理なんです。で、コーヒー鶏油がけっこうな量できてしまったので、そこに味噌を足して、その日の夕飯に茶飯と、その鶏の皮を添えて恐る恐る出したら、抜群においしかったんです(笑)。
オオヤ
飯がめっちゃ進むんです。あれ驚きですよ。コーヒーで米を食ったの初めて。ご飯を食べた後にほんのりとコーヒーの後味が残るという感じ。でもなんにもイヤじゃないんですよね。普通にコーヒーがここにあって、無理やりじゃないお料理になってて、残ったものもちゃんと食べられる。リゾットにも残った鶏の皮にもちゃんとコーヒーの味がした。こういうことをできる人がいるんだなって驚きました。俺は生の味と焦げた味の落差を、どれだけきれいなグラデーションに持っていくかを思いながらコーヒー豆を焼くんですけども、そのときに、すごく具体的にアイデアになるのは亜衣さんです。亜衣さんはパクりやすい(笑)。今回のリゾットはまだ完全に消化しきれてないほどすごいけど、でも食べた人はすごいと思わないよね。普通にとてもおいしいものだとして食うと思う。
細川
私は料理作るときにあんまり迷わないんです。そのときに思ったことを絶対に成功させよう、なんとか形にしようというパターンが多いので。コーヒー・リゾットに関して言えば、会の前にオオヤさんからこれを使ってみてくれますかっていうことでコーヒー豆をいただいて、普通に飲んだりもしてみて、でも、そもそも私はコーヒーの味なんてそんなにわかっていない人間なので、飲んでみて、これだったらこんな料理なのかなっていう方には、ぜんぜん味覚の体験が行かないんですよね。だけど、この香りを料理の中でただの面白さとか、ちょっと変わってるねっていう良さじゃなく、コーヒーのおいしさとして生かすにはどうしたらいいのかなって考えていったときに、いままでのいろんな料理の経験から、この方法だったらコーヒーの風味がいい形で、料理の中で生きてくるだろうって思って、そうしただけ。
オオヤ
ほんとは、これを使って熱を入れたらコーヒーの風味は出ないから、オオヤさん、もうちょっとここをこうやってくださいというのがあるのかなと思ってたら、一発決め(笑)。俺らコーヒー屋から言わしたら大雑把な部分で味をとってるけども、でもすごい料理が出来上がっている。誰が食べてもコーヒーだってわかったし、オオヤのコーヒーとはわかんないけども、悪くないコーヒーだよねというのがわかるような香りだった。
細川
大雑把という言葉が出たけれど、料理を作るときに、どこかですごく大雑把さを残しておきたいって思っています。でも、もしかしたらほかの人はやらない細かいこと、それは手の込んだとか、ワッと驚かせるような細工をするという意味じゃなくて、ちょっとした下ごしらえだったり塩の振り入れ方だったりタイミングだったり、そこさえ押さえておけば、あとは大雑把にした方が食べる人が疲れないし、自分もそういう料理が食べたいと思っているんで、そういうふうにいつも考えて料理をしてるんです。コーヒーのリゾットも、オオヤさんがご自分で焙煎してらっしゃるコーヒーを使ったものを食べても、俺のコーヒーの料理だとはわかんなかったかもって言ったのは、いい結果だなと思いました。あからさまに、誰々さんが作った何々を使ってますみたいな、そういう語りがすごく感じられる料理が私はちょっと苦手なんですね。
オオヤ
俺らはいつも細かく味を見る。それが現実に引き戻される、俺にとっては逆の刺激。すごいハッとさせられる。反省するくらい。亜衣さんは「おいしい」ってあまり言わない。そこも影響されています。「いい味」とか、この人にしかできない味だから好きとか言う。この人にしか作れない料理だよねっていう評価、そういう捉え方っていうのはすごく面白い。お客さんのためにコーヒーを焼くときの節度のある幅の広げ方に、ヒントをいただいているんです。だからこそ亜衣さんにコーヒーを飲ませたい。亜衣さんみたいな特殊な仕事をしている人が、コーヒーの味をどう捉えるのかというのがすごい興味があるんです。いまだに「亜衣さん、ドリップでいいと思う?」って聞きたいです。調理法として、コーヒー豆の味を液体に移す作業は、ドリップ以外になんか考えられる?
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細川亜衣

ほそかわ・あい/1972年神奈川県生まれ。大学卒業後にイタリアに渡り、レストランの厨房や家庭のキッチンなどさまざまな場所で料理を学ぶ。現在は熊本を拠点に料理家として活動。『食記帖』『パスタの本』など著書多数。近著の『朝食の本』も好評。

photo/
Keisuke Fukamizu
text/
Hitoshi Okamoto

本記事は雑誌BRUTUS909号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は909号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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