【2020年1月10日オープン】田根剛、田中開らが手がける話題の食空間〈GYRE.FOOD〉は未来の東京がテーマ。

BRUTUSCOPE

No. 907(2019.12.16発行)
危険な読書2020
田中 開(左)、田根 剛(右)

表参道に遺跡が出現⁉ 仕掛け人は建築家・田根剛。

〈the OPEN BOOK〉田中開と語る、これからの飲食空間。

田中開
今、僕らが座っている雛壇の周りの壁、全部ホンモノの土ですよね。
田根剛
はい、「東京の新しい食空間を」という依頼に、なぜか洞窟の中のピラミッドみたいな空間で応えてしまいました。
田中
始まりは、表参道の複合ビル〈GYRE〉の4階を新たな食空間にリニューアルすべく、僕らが集合したことでしたね。空間設計が田根さん、コンセプトが〈eatrip〉の野村友里さんと〈HiRAO INC〉の平尾香世子さんで運営が僕、メインシェフが信太竜馬さん。
田根
最初に聞いたのは、〈GYRE〉のコンセプト「SHOP&THINK」と、ほぼ仕切りのない1000㎡のフロアに、レストラン2つとバー、ショップ、イベントスペースを融合させる「ワンフロア・ワンコンセプト」のプラン。広すぎて困りました。
田中
田根さんにとって日本では最初の飲食店だったのに無茶ぶりでしたね。1000㎡もあるとフードコート的になりがちですが、そうしなかったのは?
田根
僕、テーブルを囲んで食べることがとても大切だと思っているんです。どの国、どの時代でも、家族や人の関係性はテーブルを囲んで食べる空間が生むものだから。
田中
わかりますわかります。
田根
だからフロアをゾーニングして、ちょっとずつ環境が違う「テーブルを囲む場所」を作りました。例えばテラスに面したスペースは、表参道を一望できる開放的なテーブル席にした。一方で、ジャングルのような植栽に囲まれる席もあるし洞窟に籠もるような席もある。
田中
何度か通ううちに好みの席ができて、東京の人にとっては表参道の行きつけの一つ、外国の方なら日本滞在中に一回は必ず寄る店みたいになったらいいな。

未来の食空間を考え続けたら、 土に囲まれた遺跡に辿り着いた。

田中
それにしてもテラスに続くテーブル席の開放感にはびっくりした。東京にもまだこんな気持ちいい場所があるんだ、東京の未来がこんなふうだといいなって。
田根
そうそう、僕も「東京の未来の食文化」に繋がる空間をずっと考え続けていて。それで辿り着いたのが古代遺跡。
田中
えっ?
田根
東京の都市化が進んで人類がいなくなったら、すべての建物は風化して土に還って遺跡となる。後に残るのは木々と植物だけ。「都会の未来図は古代遺跡」という景色を思いついたんです。そういう場所で食べるのは根源的でもあるし、逆に未来を感じるのかもしれない、と。
田中
面白いなー。もはやSF。
田根
床は土を固めて、壁は土を吹きつけてプリミティブな質感に仕上げました。植栽も地層を1m高くして、土から立ち上った遺跡のような什器に植えて……。
田中
テーブルもぴかぴかの銅板のように見えますが、実は土だと聞きました。
田根
泥団子と同じで、土をひたすら磨くとこうなる。職人さんの腕の筋肉が一回り大きくなるほど磨いた特注です。
田中
土といえば土と食材を循環させるシステムも導入します。まずはコンポストでゴミを土や植栽の肥料に戻す。食材は、肉も魚も大きい単位で仕入れて無駄なく使う。鴨なら、上等な部位は高級な料理に使い、ほかはスープやサンドイッチにしてデイリーな店で出すという具合。
田根
価格帯が違う店がワンフロアに同居するから、それができるわけですね。
田中
食の在り方も空間も、すべての根本にあるのは「飲食店もサステイナブルであるべき」というマインドです。それが新しいことではなく、あたりまえのこととして町に馴染んでいくのが理想かな。
田根
未来を考えるならなおさら、「新しいことをしない」ことが大事。「新しい」と「未来」はイコールじゃない。新しいことを追うより、大事なことを見極めて継続していく先にだけ未来がある。
田中
たしかに。新しいことに飛びつくと、結局みんなと同じ「新しい」を消費するだけになっちゃう。古代遺跡が未来だ! くらいの信念をもって進まないと。
田根
(笑)。
田中
ここにいると「土に触りたい」と思ってしまうんだけれど、そういう、忘れかけていた本能的な欲求が喚起されることが、結構大切な気もします。
田根
表参道のお洒落な通りを抜けて、土に囲まれた、土に還る空間で食べる。そこに未来を感じられるといいですね。
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表参道の新名所〈GYRE.FOOD〉。

表参道〈GYRE〉4階に、1,000㎡、約150席の食空間が誕生。グランメゾン〈elan〉、オールデイ・ダイニング〈EUREKA〉、バー〈funklein〉、グロッサリー&スーベニアショップ〈eatrip soil〉とイベントスペースが共存。●東京都渋谷区神宮前5−10−1 GYRE 4F☎03・3498・6990㈹。

田中 開

たなか・かい/1991年生まれ。祖父の故・田中小実昌が通っていた新宿ゴールデン街で、レモンサワーと数千冊の蔵書が名物のスタンディングバー〈the OPEN BOOK〉を経営。2020年は日本橋兜町のホテルにもバーをオープン。

田根 剛

たね・つよし/1979年生まれ。パリを拠点とする建築家atelier Tsuyoshi Tane Architects代表。場所の記憶から建築を創る手法で世界的に評価される。エストニア国立博物館、弘前れんが倉庫美術館など。http://www.at-ta.fr

photo/Satoshi Nagare text/Masae Wako/

本記事は雑誌BRUTUS907号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は907号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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