旅と地域

和空 三井寺 わくう みいでら 滋賀/大津

国宝に囲まれて眠る。

No. 905(2019.11.15発行)
ニッポンのホテル。
多くの戦乱を乗り越えてきた金堂は、豊臣秀吉の正室、北政所によって再建された桃山時代を代表する名建築。国宝に指定されている。

1,300年の歴史と国宝に囲まれて眠る。

国宝のなかで座禅を組み、長等山で山伏体験。64の国宝と720点の重要文化財に囲まれた、ここにしかない宿坊体験。

山伏体験では、用意された山伏装束に着替えて長等山を2時間ほどかけて歩く。宿泊客のコンディションに合わせ、コースを変更するなどフレキシブルに対応してくれる。

これまでも、ほぼ人目に触れることなくひそやかに安置されてきた不動明王像。いまは、宿坊〈和空 三井寺〉の仏間で宿泊者のみが拝める。

「日本庖丁道 清和四條流 第35代家元」でもある〈近江懐石 清元〉の清本健次自らが宿坊まで出向き、宿泊客のために懐石料理を振る舞う。

ゆとりのある居間と主寝室から、庭を望むことができる。この日の床の間の掛け軸は、400年前から三井寺で受け継がれている貴重な文化財。

“不死鳥の寺”に残された僧坊が、宿坊となって蘇る。

 神社仏閣の境内に宿泊できる「宿坊」。それ自体はそう目新しいものではないかもしれない。だが、64点の国宝と720点もの重要文化財を所蔵する寺院の境内に泊まれる機会はそうないだろう。

 源平、南北朝の争乱などによる10回以上の焼き討ち、豊臣秀吉による寺領の没収と苦難を迎えながら、時の権力者が尽力したことで幾度もの再建を成し遂げたことから“不死鳥の寺”とも呼ばれる天台寺門宗の総本山・園城寺。天智・天武・持統天皇の産湯に用いられた霊泉を由来とした「三井寺」の名で知られるこの地にある宿坊〈和空 三井寺〉には、宿泊客のみの“特別”が用意されている。

 基本料金内でも、国宝の光浄院、勧学院客殿内での座禅体験、三重塔や観音堂 内陣など一般公開されていない場所の特別拝観を含む。また、400年以上の歴史を持つ僧坊・妙厳院を改装した客室内の仏間には、大日大聖不動明王像が安置されている。2つの寝室を備えた、1日1組限定のプライベート空間で、一般公開されてこなかった国宝級の秘仏に護られながら眠りにつく。これだけでも得難い体験だが、スペシャルプランを選択すれば、1組だけの護摩祈祷や山伏修行を体験することも可能となる。本物の修験者と同じ装束を身に纏い、三井寺の僧侶たちが修行で山駆けをする長等山に足を踏み入れれば、山岳信仰への興味はより強くなるだろう。また、宿泊中は〈和空〉総支配人の桝井忠俊自ら、三井寺の歴史から天台寺門宗の作法までを丁寧に説明してくれるので、仏教の知識がなくとも問題はない。むしろ、知らないからこそ見るもの、聞く話、どれもがリトリート体験となるはずだ。

「宿坊〈和空 三井寺〉にお泊まりいただくなかで、厳しい修行をするのではなく、エピソードを交えた耳に残りやすい形で仏教に興味を持っていただければと思っています。朝食は400年前の建物をリノベーションした茶房でお召し上がりいただき、夕食は琵琶湖で獲れたビワマスや天然のウナギなど、地元の食材を〈近江懐石 清元〉の料理長がお部屋で調理します。提供するすべてに三井寺と滋賀のストーリーが込められているんです」

 居間から望める庭には5本の桜が植えられており、季節になると桜の屋根が現れる。秋は紅葉、冬には雪で覆われることもある。東海道五十三次で京都を目指す者にとって、大津は最後の宿場町。多くの武将も泊まったという1300年の歴史を持つ三井寺の宿坊で英気を養ってから、次なる旅に出かけるというのもよさそうだ。

徳川家康により寄進された三重塔。普段は非公開だが、宿泊客のみ中に入ることができる。

石段の脇には、歴代の探題によって奉納された唐院探題灯籠が配されている。

展望台から見える大津の街並み。すぐそばにある観月舞台も宿泊客だけは中まで入れる。

1,300年の歴史を誇る寺の宿坊で、ヒノキ風呂の湯船につかるという贅沢な体験。

戦国武将・毛利輝元により山口県国清寺から移築、寄進された一切経蔵。重要文化財。

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滋賀県大津市園城寺町246 三井寺内☎06・4801・8211。1日1組、最大4名まで宿泊可能。1名ごと1泊朝食付き55000円(体験、特別拝観は別途)。2018年11月オープン。

アクセス/京阪石山坂本線三井寺駅から徒歩5分。JR東海道本線大津駅・JR湖西線大津京駅から京阪バス
「三井寺」下車すぐ。送迎あり。

周辺情報/大津市内には、三井寺に比叡山延暦寺、西教寺を加えた日本天台三総本山がある。いずれも琵琶湖を眼下に望む景勝地でもある。

photo/Masanori Kaneshita text/Satoru Kanai/

本記事は雑誌BRUTUS905号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は905号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.905
ニッポンのホテル。(2019.11.15発行)

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