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[話題の映画] 『ガリーボーイ』新進女性監督が見つめた、インドのヒップホップシーンとは?

BRUTUSCOPE

No. 904(2019.11.01発行)
映画特集 いま観る理由
ゾーヤー・アクタル(左)1972年インド・ムンバイ生まれ。映画監督。20 09年、『チャンスをつかめ!』で監督デビュー。11年、『人生は一度だけ』がヒット。両親は脚本家、弟も映画監督という映画一家。 ダースレイダー(右)1977年フランス・パリ生まれ。ラッパー。東京大学中退後、2000年にラッパーとしてデビュー。10年に脳梗塞で左目の視力を失い、40歳で余命5年を宣告される。近著は自伝『NO拘束』。

インド初(⁉)ヒップホップ映画『ガリーボーイ』。ラッパーのダースレイダーがゾーヤー・アクタル監督からそのシーンを探る。

現在公開中の映画『ガリーボーイ』はインド初のヒップホップ映画。ムンバイのスラム街を舞台に、実在するラッパーの半生を描いた作品だ。メガホンを取ったのは、実力派女性監督ゾーヤー・アクタル。映画に感銘を受けたラッパーのダースレイダーとインドのヒップホップ事情を語り合う。

ダースレイダー
初めて人前でラップをしたときのことを思い出しました。僕もマイクを握ってライミングを始めたとたん、人生観がガラッと変わったんです。映画はその瞬間をちゃんと捉えていると思いました。それは、ラッパーだけじゃなく、表現者はみんなそう。ステージに立ったときにマジックが起こるんです。そこに感動しました。
ゾーヤー・アクタル
うれしい! ありがとう。
ダース
スラム出身の青年が自由を得るためMCバトルに挑む話ですが、実際、ヒップホップは現状打破の手段になっているんでしょうか?
ゾーヤー
インドのヒップホップシーンはまだまだ脆弱です。でも確実に広がってはいるんです。ビートを盗んで、言葉を乗せて、それをネットに上げれば一攫千金のチャンスが巡ってくる。マイク一本あればいいから。
ダース
日本のMCバトルは、ビートを使いますが、映画はアカペラでやっていました。それがインディアンスタイル?
ゾーヤー
ビートを使う場合もあるんですが、普通はただやる。Just do it. ライミングしながら言いたいことをラップする、それだけなんです。
ダース
だから言葉が立つんですね。ただ、インドは多言語の国。ラップは何語が主流ですか? 
ゾーヤー
メインはヒンディー語ですが、パンジャーブならパンジャビ、コルカタならベンガリーズ、基本的にラップはそれぞれの地域の言葉です。
ダース
それぞれ理解はできますか?
ゾーヤー
難しいです。だいたいの人は2〜3個の言葉ならわかるんだけど、全部は無理。
ダース
でもバイブスは伝わりますよね。僕もエナジーを感じました。とにかく驚いたのは、社会や政治に対する批判を込めた強烈なリリック。インドのラップはハードコアだなって。やっぱり、カースト制度の名残があるからですか?
ゾーヤー
というより、経済格差の問題ですね。格差が生み出すあらゆる差別、階級差別や宗教的差別、性差別、歪んだ家族の構造。主人公のムラドのようなスラム街のマイノリティ(イスラム教徒の貧困層)はもっと厳しい現実があるんです。
ダース
お父さんも彼に言いますよね。息子がラップで理不尽な社会と闘おうとする姿を見て、夢を見るな、これが現実なんだ、受け入れろと。
ゾーヤー
お父さんの現実がそうだったから。でも同じ生き方を息子に押しつけるのは違います。
ダース
ムラドの恋人サフィナも強い意志を持った女性です。ムラドとは身分の違う医者の娘。負けん気が強いキャラクターで。でも、父と同じ医者を目指して勉強しているのに、見合いをして結婚しろと親に厳しく言われる。しないと学校へ行かせないと。それはごく普通にあることですか? 
ゾーヤー
インドでは、どんなに優秀で将来有望でも、女の子というだけで規制されることが多いんです。サフィナはそういった差別と闘っている。怒りが彼女をパワフルなキャラにしてるんです。
ダース
実は日本でもそういった差別はあって。大学入試の段階でどんなに頭が良くても故意にはじかれてしまったり。
ゾーヤー
医大の話でしょ? ひどすぎる。いまの世の中、そんなことはジョークでしかない。
ダース
ただ、インドではそういったことが明るみに出て、ラップのネタになるけれど、日本はなんでも隠してしまうんです。表面的にはフェアだと見せかけて、実態は違う。格差社会だし、あらゆる差別もある。いまはそういった問題を訴えるチャンスなのに、日本では活発化しない。ただおとなしくしているだけで。
ゾーヤー
ムラドも最初はそう。言いたいことがなかなか言えない日本人的な子だったんです。
ダース
最初のバトルではそうでしたね。気圧され、後ろに下がってしまった。でも、バトルを重ねて表現できるようになり、社会に強烈なメッセージを伝えるラッパーに成長する。ヒップホップだけでなく、未来ある若者に次のステージへ行く勇気を与える映画だと思いました。言いたいことを言わない我々日本人へのメッセージでもあると。
ゾーヤー
そう、人は変われるんです。ヒップホップは未来を変える鍵を握っていますから。
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『ガリーボーイ』

ムラド(ランヴィール・シン)は雇われ運転手の父を持ち、スラムに暮らす青年。両親はムラドがいまの生活から抜け出し成功できるよう大学に通わせるために一生懸命に働いていたが、ムラドは生まれで人を判断する社会に怒りを感じラップの世界にのめり込む。アメリカの人気ラッパーNASがエグゼクティブプロデューサーを務め音楽を提供。いとうせいこうが字幕監修。「ガリー」は「路地裏」の意味。新宿ピカデリーほかで全国公開中。

photo/Koichi Matsuki text/Izumi Karashima/

本記事は雑誌BRUTUS904号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は904号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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