エンターテインメント

読んで、調べて、考えて。ことばの指定席を探していく。

ことばが生まれる場所へ。

No. 898(2019.08.01発行)
ことば、の答え。

毎日新聞社 校閲センター

校閲という仕事は、『大辞泉』によれば「文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること」。具体的には、新聞記事になる前の原稿をチェックしています。政治家の名前や歴史的な出来事などの事実関係、地図の縮尺やグラフの数字についても一つずつ情報にあたって間違いがないかを確認します。てにをはを直したり、辞書にないことばの使われ方を指摘したり、重複する表現を省いたりして、文章を整えていきます。
 
文章の表現に手を入れる時は、事実関係に関わる部分とは扱いが変わってきます。例えば原稿に「謎をひもとく」という表現が出てきたら、「本を開いて読む」という「ひもとく」の意味からは外れるので、社説であれば誤用と指摘。探偵映画の紹介コラムなら、あえてかな? 「」付きなら柔らかい表現としてアリかな? と使われる状況によって悩むところ。上司や同僚にも相談しながら検討を重ねます。ある表現が正しいか正しくないかの線引きって曖昧だし、むしろ曖昧であるべきだと思うんです。ことばって意味も形も変遷していくもので、かつて誤用とされていたものが新たに辞書に載ることもあるわけですから。そんなふうにベターやベストを探しながら、ことばを指定席に収めていく感覚です。
 
きれいにした原稿を、紙面の形に組む整理記者に送り、印刷工場へ送る前に最終チェックをするまでが校閲記者の仕事です。その日ごとに、1面、社会面、経済面など、面ごとの担当が決まっていて、担当面の記事はすべて1人で初校するんですが、そこから上司が再校し、紙面と同じ形に組まれた大刷りの段階でもう1人が読む。「目を変える」と言って、一つの記事を最低でも3人が読みます。それでもやっぱり失敗することはあって、「ガッツポース」や「大坂市」なんて表記を見逃してしまうこともある。そして翌日の紙面に訂正やおわびが載るわけですが、それは私たちにとって敗北。死んでおわびを、という気持ちになります。私は昨年1月に犯した失敗記事を切り抜き、戒めのため社員証に挟んで首からさげ、日々暮らしています。

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湯浅悠紀

ゆあさ・ゆき/写真中央。毎日新聞社 編集編成局 校閲センターの記者。子供の頃から新聞を広げ、知らないことばに出会うたび辞書を開いて新しいことばを覚えていた。愛読書は谷崎潤一郎『夢の浮橋』。趣味は文楽鑑賞。編集局の一角にある作業スペース。記事を読んでは調べ、調べては直し、と続く校閲作業は深夜に及ぶ。判断に迷ったら上司にも入社1年目の後輩にも相談する。

photo/
Koh Akazawa
text/
Hikari Torisawa

本記事は雑誌BRUTUS898号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は898号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.898
ことば、の答え。(2019.08.01発行)

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