エンターテインメント

新世代J−POPの感覚的なことば。

歌詞

No. 898(2019.08.01発行)
ことば、の答え。

聴き手に寄り添う“共感”の歌詞の時代に区切りがつき、最近のシンガーソングライターは、より文学的な歌詞を紡ぎ出す。彼らの歌詞の世界観に引き込まれてしまうのはなぜなのか。新しい時代の担い手たちの詞を読む。

「2000年代のJ−POPの歌詞は、等身大や共感に焦点を絞って書かれたものが多かった」そう話すのは、J−POPに精通する音楽ジャーナリストの柴那典さん。一つの要因が、“着うた”だった。「今や着うたは失われた文化ですが、J−POPカルチャーの中では無視できないほどの影響があった。そこから女性シンガーソングライターのカリスマが登場し、その代表が西野カナ。彼女の歌詞の一番の特徴が、同世代の女子のライフステージに寄り添う歌詞。それが王道でした」
 
ところが2010年代に入ると、その時代に区切りがつき、シンガーソングライターたちの歌詞も変化。「今の時代を象徴する女性シンガーソングライターといえばあいみょん。歌詞に注目すると、ほとんど女性に寄り添っていない。ジェンダーレスでいて、生死の過激な描写も出てくる。特にメジャーデビュー曲の『生きていたんだよな』は、自殺の描写もありすごくセンセーショナルでした。そして、男性を代表するのが米津玄師。やっぱり彼も、歌詞のわかりやすさに重きは置いていない。代表曲の『Lemon』も、親しい人を亡くした喪失感がテーマになっている。2人とも、心の深いところをえぐるような曲を作っている。そして、普遍性があることも特徴ですね」
 
それに続く新世代のシンガーソングライターたちにも、その傾向は引き継がれているという。「彼らは独自の感性と美学を追求していて、そこからことばが紡がれている。例えば、声の出し方を含めて中性的なところがあるのが、君島大空。共感よりも芸術性を追い求めるところも特徴です。そして、メッセージ性という部分もポイントになっていて、フォークの時代から、シンガーソングライターは自分の思いを届けるタイプが主流だった。それは今も変わらないけれど、君島さんはメッセージ性よりも、詩的であることを大切にしている感じがする。崎山蒼志や折坂悠太も同じタイプ。歌っている対象やテーマがわかりにくく、一聴しただけでは難解。けれど、ことば選びやモチーフなど、歌詞の書き方に詩人としての美意識みたいなものが宿っていて、それが人々を惹きつける鍵となっています」
 
ほかにも、長谷川白紙や柴田聡子、中村佳穂らも、感覚的なことばを大切にしていると語る。「数年前、作詞家のいしわたり淳治さんが、“音楽の楽が、薬になっている”、つまり、歌詞がサプリみたいに乱用されていると危惧していた。“頑張れ”とか“辛くない”と呼びかける直接的な表現が多かった。新世代のシンガーソングライターたちの表現は、それとは違う。個人の美意識や、壮大なテーマ、深遠なものを突き詰めていて、独自の美学が歌詞に宿っているんです」

普遍性の中に滲み出る異能さ。| 折坂悠太

歌唱法にしても、音楽の作り方にしても、新世代の中で最も独特な存在感を放つ。彼の歌詞には、今の時代感よりも、普遍性を意識してことばを選んでいる印象を受ける。「抱擁」なら、歌詞中にある「ひねもす 波を見てる」などに表現されている。トラディショナルな音楽に影響を受けてきた彼だからこそ、ポップミュージックでありながらも、ある種の民謡や童謡になり得る予感も与えてくれる。



原石ながら、光りすぎている16歳。| 崎山蒼志

群を抜いて若く、これからのJ−POPを担っていく原石。何がすごいかって、めちゃくちゃギターがうまい。また、小説家中村文則さんの影響が強いと本人も発言するほど、彼の歌詞は文学的。特に「国」は、壮大な始まりを予感させるよう。一聴しただけでは、何のことを歌っているのかはすぐにはわからない。けれど、何度も読み込んでいくほどに、重厚なその美意識の世界に引き込まれていく。


身体性がテーマの前衛的歌詞。| 長谷川白紙

彼が作る曲は、ブレイクコアというジャンルにも通じるアバンギャルドでユニークな電子音楽。こういうタイプの作曲家たちは、これまであまり歌詞に独自性のない人が多かったけれど、彼は違う。この「毒」が代表するように、身体性がテーマになった歌詞はとても難解。けれど、身体感覚の曲が書かれていることを踏まえてもう一度歌詞を読むと、こちらにも感覚的に伝わってくるものがある。


ポップなメロディと詞のギャップ。| 柴田聡子

インディーズでキャリアを重ねてきた彼女は、文筆家としても活躍するだけあって、詩人ならではの美意識を研ぎ澄まして歌を作っている。この曲は、結婚というテーマもメロディもハッピーなのに、ふとその幸せの後ろにある儚さを感じさせる。曲を聴くのと、詞だけを読むのとではまた感じ方が変わってくる。それがカラフルなサウンドに乗って歌われているという不思議さも魅力。



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折坂悠太

おりさか・ゆうた/1989年鳥取県生まれ。幼少期をロシアやイランで過ごし帰国。2013年から活動スタート。今年3月29日に『抱擁』を発売。ドラマ『監察医 朝顔』の主題歌に新曲『朝顔』を提供。

崎山蒼志

さきやま・そうし/2002年静岡県生まれ。4歳でギターを始め小学6年生から作曲をスタート。18年に1stアルバム『いつかみた国』を発売。ドラマの主題歌、CM楽曲なども担当する。

長谷川白紙

はせがわ・はくし/20歳の音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開。17年11月にフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、昨年12月に初のCD『草木萌動』を発売。

柴田聡子

しばた・さとこ/1986年北海道生まれ。2010年に活動スタート。詩集『さばーく』を出版するなど、文筆家としても活躍中。今年3月にアルバム『がんばれ!メロディー』をリリース。

解説

柴 那典 音楽ジャーナリスト

しば・とものり/1976年生まれ。ロッキング・オン社を経て独立。音楽やサブカルを中心に雑誌などで執筆。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『ヒットの崩壊』など。

edit&text/
Kisae Nomura

本記事は雑誌BRUTUS898号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は898号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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ことば、の答え。(2019.08.01発行)

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