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シンガポールのチャンギ空港に植物園!? 話題のJEWELに行ってきた。

 

No. 896(2019.07.01発行)
新・珍奇植物
約22,000㎡に及ぶ屋内庭園〈SHISEIDO FOREST VALLEY〉。4階分の吹き抜け空間の中央には巨大な滝「HSBC RAIN VORTEX」が深夜まで(8時〜0時30分)流れ続ける。ドームの設計は、あのマリーナベイ・サンズを手がけた建築家、モシェ・サフディ氏が担当。造園はアメリカのPWP LANDSCAPE ARCHITECTURE、シンガポールのICN Designが担当した。

年間8,500万人が訪れるアジアの玄関口、シンガポール・チャンギ空港。4つあるターミナルの中央に、今年4月に誕生した大型商業施設〈ジュエル・チャンギ・エアポート〉は、近代建築と植物園が共存する、まさに存在自体が“珍奇”な場所。その裏側も徹底調査。

万国の植物が共存する、新聖地。

ここはジャングルか、はたまた大都会か。太陽光が燦々と注ぐ、一面ガラス張りの天井から湧き出るように流れ落ちる40m級の滝。世界中から集められた10万本の木々の間を、自動化された無人のスカイトレインが通過する。まさに絵に描いたような未来型の都市空間が広がるジュエル・チャンギ・エアポート内。「City In A Garden(庭園都市)」を都市ビジョンに掲げるシンガポールを象徴する、新スポットだ。植物の新聖地としても注目を浴びる、世界で類を見ない施設が竣工するまでに、苦難も多かった。
 
自国の植物だけでなく、近隣国のタイや中国、東はアメリカ、西はスペイン、南はオーストラリアまで、世界中から運び込まれた、約2000種、10万本の植物が共存する。生態系の異なる品種を、シンガポールの熱帯気候に合わせていかに生育を安定させるか。それが最大のネックだったという。2015年に始動し、地質学者も加えた植栽プロジェクトチームが品種の選別、調達、運輸、植栽のすべてを担当。長期の海運を耐えるため、湿潤剤を施した後、枝木はヘシアンの布で保護し、葉は軽量なプラスチックネットで水の蒸発を防ぐ徹底ぶり。輸送後は、施設内と同じ、湿度、温度、光量を再現した1・5ヘクタールの仮想スペースに移し、約2年間かけて最適な地質と植栽環境を研究。植物の環境適応力だけに頼るのではなく、科学的な裏づけに基づき、棚田式の施設内のどこに植栽するかまで慎重に選定したという。当然、施設が竣工してからも息つく暇がない。日々、植栽プロジェクトチームが植物の生育を観察し続けている。広大な施設地内の環境を常に最適に保つため、温度や湿度のみならず、水やり、風当たりまですべて自動化されたシステムで管理。これらの積み重ねがあって、自生地さながらの生き生きとした姿をとどめている。“珍奇植物は一日にしてならず”という心得を、改めて痛感する場所だ。

地上5階、地下5階からなるフロア構成を細かく再現したドーム型の模型。地下2階まで流れ落ちる人工滝がやや右寄りに位置する構造や、世界最大の全長がよくわかる。

まだまだある、JEWELの見どころ。

Jewel Changi Airport

ドームを覆う、特殊ガラス。

約250㎏のガラス板を9,000枚用いた近代的なデザイン。大量の植物を育成するための日光を十分に取り込み、建物内に熱をとどめない最新の断熱性ガラスを採用。飛行機の離着陸の障害にならないように、表面には特殊コーティングを施し太陽光の反射率を低下させる工夫が。独特な卵形の建物を象るために、一枚ずつ異なるフォルムにガラス板を湾曲させるなど、とてつもない時間とコストを要した。

飛行機を降りてすぐ、植物が出迎えてくれる。

世界有数の庭園都市、シンガポールの緑化政策を象徴するように、搭乗口を出てすぐの各ターミナルから〈ジュエル・チャンギ・エアポート〉へ続く通路まで、手入れの行き届いた熱帯植物が溢れている。ターミナル2、3からは、スカイトレインに乗って新名所へのアクセスが可能。第5ターミナルとなる「チャンギ・イースト(仮)」が計画されるなど、アジアのハブ空港としてさらに規模を大きくする予定だ。

植栽を支える自動化システム。

広大なドーム内を埋め尽くす植物の育成を陰で支えるのが、約30名の植栽プロジェクトチームと自動化された植栽機器。木製のベンチの中に隠れた巨大扇風機や、自動ドリップ式のスプリンクラーやホースといった灌漑システムを、景観を損なわずに設置。フロアごとに適切な温度、湿度をコントロールし、中央センターで常にモニタリングするなど、最新技術と人の経験を融合させた管理を徹底している。

施設を循環する50万ℓの水。

フードコートが広がる地下2階では、約50万ℓの水が勢いよく滝壺に吸い込まれていく様子をガラス越しに観賞できる。ただし強力な防音ガラスで覆われているために、大迫力の無音空間になっている。流れ落ちた水は、さらに地下階層に設置された水溜めから外壁の骨組みに組み込まれた配管をつたい再び地上約30mの天井までポンプで押し上げられ、常に循環する仕組み。見どころは植物庭園だけじゃない。

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JEWEL CHANGI AIRPORT

総工費約1,400億円を投じた大型商業施設。ひときわ異彩を放つ巨大なドーム型。ショッピングモールやフードコートなど、世界で話題のショップ約280店舗が軒を連ね、空港利用者以外も観光で訪れている。

photo/
Yasunori Yamamoto
edit/
Keiichiro Miyata

本記事は雑誌BRUTUS896号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は896号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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新・珍奇植物(2019.07.01発行)

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